第40話 曲解と暴走は得意(3)

 一度で楽になれるような死に方ではなかった。魔性特有の回復力を見込んで、ぎりぎりの成長速度を保っている。レイリが回復した分を吸収し、失われた魔力を彼女の核が再び回復しようとする。


「ジル、ライラ」


 名を呼ばれた2人は一瞬だけ視線を見合わせ、すぐにルリアージェの足元に膝をついた。転移したジルもほぼ同時に傅く。


「まず、ライラ。それは?」


 指差された大木は、根元にレイリの半身を包み込んでいた。彼女の髪や肌がちらりと覗くが、ジルとライラが作った植物にほとんど覆われる。


「ご覧のとおり、さっき咲かせた薔薇よ。また綺麗な花が咲くから、お茶のテーブルに飾りましょうね」


「……」


 言葉が見つからないルリアージェが顳を押さえながら、隣のジルに尋ねる。


「お前の手にある、それは?」


「封じ玉の一種だ。綺麗だろ? 時々色が変わるんで、高く売れるんだ」


 確かにテラレスの王宮勤めをしていた頃、宝物庫で見たことがあった。何か大きなパーティーがあると、王座の近くに飾られていたが……あれは中に魔性を閉じ込めたものだったか。


 出来れば知りたくなかった真実に、ルリアージェは大きく溜め息を吐いた。


「だってリアが、2人で半分に分けろって命じたんだぞ」


 予想外のジルのセリフに、蒼い目を見開く。首をかしげた彼女の首に、さらりと銀髪の一部が揺れた。何を言われたのだろう。半分にしろと言ったが、あれが命令? 生きた魔性を2つに裂けと命じた?


 あまりにも人と魔性の考えは違っている。


 ルリアージェの意図は、戦うなら交互にするなり権利を半分にしろ、という単純なものだった。ターゲットが1人なら2人がかりで戦うのは卑怯だと思ったのもある。それを彼らは、1人しかいないなら2つに引き裂いてそれぞれを殺せばいいと受け取ったらしい。


「……それは……」


 残酷だから禁止する。ルリアージェがそう決めて彼らに告げたら、また命令として受け取るだろう。次は獲物を取り合ってケンカするかも知れない。まったく違う生き物なのだ。


 飢えた狼達に1つの肉を与えて、ケンカをするなと命じても通じないのと同じだった。互いに肉を奪い合ってケンカする。ましてや彼らは自分を主に定めたと言った。


 かつて見かけた使い魔は、主の命令を果たすために命がけで戦っていた。傷だらけになろうと、手足を失おうと褒めてもらうために頑張る。そういう性質を持った魔性に、下手な命令は出来ない。


 唇を尖らせて不満だと告げるジルも、何が不機嫌の原因か探るようなライラも、互いにきちんと命令を果たしたと思っている。


 ならば……。


「よくやった。ジルもライラも、私の自慢だ」


 そう告げるしかなかった。彼らを暴走させないために、曲解できないよう直接的な表現を使用するだけ。次からは気をつけようと心に誓うルリアージェを他所に、ライラとジルは嬉しそうに頬を緩めた。

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