第35話 新たな騒動の予感(2)
眠い目を擦りながら起きたルリアージェは、ライラの手で髪を結われていた。
「眠れなかったの?」
鏡の前に座ったルリアージェの頬を突きながら尋ねる少女は、大きな狐尻尾を揺らす。足元まで届く長い茶色の髪を三つ編みにしたライラは、手際よくルリアージェの銀髪を編み上げた。耳の上から斜めに編みこんだ髪を、最後にお団子にして花を飾る。
「うん、出来たわ」
「ありがとう。器用なのだな」
ルリアージェはどちらかといえば不器用な方だ。背中でリボンを結ぼうとすると失敗することが多いし、髪飾りがずれても直そうとしてさらに乱してしまうこともあった。手先の器用な人は尊敬してしまう。
「あら、ジルだって器用じゃない。なぜ今まで弄らせてあげなかったの? 彼は飾りたがったでしょうに」
ライラの指摘にルリアージェの表情が曇る。鏡越しに目を合わせたルリアージェの歯切れが悪い。普段ははきはき話す彼女らしくなかった。
「実は……前に結わせたことはあるが…」
「懲りすぎて大変だった、とか」
言い渋るルリアージェの様子に、思いついたライラが例をあげる。途端にルリアージェが勢いよく振り返った。目は口ほどに物を言う――まさに見本のように蒼い瞳が語る。なぜ知っているのか、と。
「手際はいいが、編んでは解いてやり直す回数が多くて……」
我慢できなくなったようだ。器用なので手際よくプロのように仕上げただろう。だが他の編み方の方がいい気がして解く。編む、解く。繰り返される状況に苛立ったルリアージェが、ジルに髪を編ませなくなったのだ。
状況は理解できたが、ライラは苦笑いして首を横に振った。
「きっと彼に悪気はないわ。前に聞いたのだけれど、リアーシェナの髪を何度も編んでやったらしいの。何か気になって編み直してしまうのだと思うわ」
別にジルを庇って立ててやる義理はない。だが、さすがにルリアージェの誤解は解いてやりたいと思った。
彼女はジルが何度も編み直すことが気に入らなかったのだ。そもそも身支度に拘るタイプでもない。しかしジルは編んでから、
どれだけ怖かっただろう。トラウマとも違う、ジンクスを避けるという表現が近い。この髪型のときに彼女が傷つけられた、あの髪型のときに殺された……ジルの悪いところだ。傲岸不遜に振舞うくせに、本性は怯える子供だった。
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