第十三章 龍炎と氷雷の舞

第35話 新たな騒動の予感(1)

「死神が復活したと聞いた」


「魔王様方も戻られたらしいぞ」


 側近や上位魔性の動きは、すぐに末端の魔族に広がる。魔王の派閥に属さない者にとっても、死神や魔王の復活は大きな影響を与えていた。


 ざわめく周囲の雑音の中、龍炎のラヴィアは退屈そうだった顔を輝かせる。


 『死神ジフィール』の封印が解けたのならば、彼の眷属も蘇っただろう。炎を手懐けた『白炎のリオネル』、水や氷を得意とする『氷静のパウリーネ』。前回は参戦しなかったが、風を操る『魅了のリシュア』もいる。彼らと戦うチャンスだった。


 1000年前の戦いは、圧倒的な力の差で死神がまさっていた。3人の魔王が全力を尽くしても応じるジフィールの狂気に満ちた笑みは、今も脳裏に焼きついている。彼の残酷で無慈悲な力は、人族に殺された神族の小娘によって解放された。


 あの小娘が鍵だと知っていたら、もっと早くに俺が殺せばよかったと思う。そうしたら、あの圧倒的な力の持ち主と戦うことが出来た。二つ名をもつ実力があろうと、彼に殺されるだろう。満足のいく全力での戦闘が待っているなら、滅びすら好ましい。


 3人の魔王は大地の魔女ライラを巻き込んで、ようやっとジフィールを封印した。ほとんどの魔族が勘違いしているが、ジフィールは力負けして封印されたのではない。付き従ったリオネルとパウリーネを己の裡に封印し、狂う己を哀れみながら鎖を受けたのだ。


 狂いきるほど弱くなく、正気を保てるほど強くない。ジフィール自身がしばらく世を離れる方法として封印を望んだのだ。みずから鎖の封印を受け、消える瞬間の安堵の表情は印象的だった。


 結局、魔王達は勝ちを譲られたのだ。仮にも魔族の王を名乗る実力者が総がかりで、死神に勝てなかった。その上、彼を封印した際に引き摺られて、魔王自身も封印されるなど……。


 魔王の眷属は『死神が最後に足掻いた呪いだ』と吹聴していたが、ある程度の水準に達した上位魔性は真実を知っている。あれは死神が仕掛けた罠や呪いではなく、鎖の封印の余波だ。全力を尽くした魔王達に、あの余波を避ける余力がなかっただけの話だった。


 封印の本体である死神が解放されれば、巻き込まれた魔王達の封印も解ける。当たり前の理論だった。そして自らの眷属を封じて護った死神が、彼らをそのままにしておくはずがない。


 ラヴィアは楽しそうに口角を持ち上げた。


「早く、戦うチャンスがくればいい」


 長い年月待ったのだ。思う存分戦いたかった。彼らの誰か1人でいい、本気で戦ってくれるなら……この命や銘もくれてやる。戦闘狂として名を馳せた『龍炎のラヴィア』は、自分勝手な望みを叶えるため動き出した。

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