第28話 迷惑すぎる来客(7)
お気に入りの側近であるスピネーとレイシアを従えて、水の魔王は嫣然と微笑んだ。眼下に広がるは人の世界、白い花の咲く町は夜に包まれていた。
見下ろした先に、かつて戦った男がいる。
「久しぶりだね、ジフィール」
「気安く名を呼ぶんじゃねえ」
魔性達の大半から忠誠を捧げられた水の魔王を相手に、ジルは憮然とした顔で吐き捨てた。友好的なムードはどこにもない。それも当然だった。
白い花の木は根元から折られ、何本か生き残った木も傷だらけだった。散った花びらが白く染める大地には、多くの人々がうつ伏せている。彼らの体は潰され、切られ、引き千切られていた。
「ジル様、これは!」
衝撃を感じた瞬間に転移したリシュアが惨状に言葉を失う。1000年の長き年月守り続けた国と国民が、一瞬にしてなぎ払われた光景は悪夢だった。
「あのバカがやらかした」
ジルが顎で指し示す上空に立つトルカーネは、小首をかしげる。足元に傅く側近を振り返り、無邪気にリシュアの逆鱗に触れた。
「ねえ、何を怒ってるのかな」
「ふざけるなっ!」
緑の艶を帯びた黒髪が怒りと魔力に煽られて舞い上がる。舞い落ちた白い花びらも、彼の感情に巻き込まれる形で竜巻のように柱となった。
「リア、どうする?」
この場面で、ジルは己の背に庇った美女を振り返る。ルリアージェは乱れた銀髪を無造作にかき上げて周囲を見回した。傷ついた人、亡くなった人、倒れたサークレラ……賑やかだった祭りの光景は、ただ一人の出現により戦場より無残な姿となっていた。
「オレはお前に従う。リアはどうしたい? 許せないなら、オレがアレを片付けるけど」
敵に背を向けたまま指先で上空を示す。アレと表現した相手が、水色の髪と膨大な魔力を持つ魔性を示していることは、ルリアージェもすぐに理解できた。
「状況がわからない。原因は何だ?」
「水色の奴が水の魔王トルカーネだ。復活してすぐにオレの顔を見に来たんだろうさ」
投げやりな説明に、ライラが呆れ声を重ねた。
「仕返しするつもりなのか、単に顔を見に来たのか知らないけど……品がないわ」
断罪する響きに、魔王の側近が黙っているわけはなかった。主と同じ瞳の色を誇るレイシアは、手に水の槍を作り出して振りかぶる。
「貴様が我が君の名を口にするなど、許さぬ!」
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