第28話 迷惑すぎる来客(2)

「つまり人が沢山あつまる祭りでは良く冷えるけれど、人が少ない場所では使えない魔法陣ということよ」


 2人の説明に頷いたルリアージェが枝の先で、魔法陣に記号を追加した。


「ここをこうしたら……もっと効率が上がるだろう。それに人の魔力ではなく、植物や土地の魔力を利用できる」


 しゃがみこんで魔法陣談義を始めた3人の周囲は、徐々に人が集まってくる。難しい話なので、一般の民に理解できる内容ではなかった。ただ魔術師自体が珍しいこともあり、見目麗しい男女は人目を集める。

唸ったジルが指先でひょいっと記号を移動させた。


「こうしないと、循環回路が働かない。増幅系の術式を足したら…追加の魔力はほぼ不要にならないか?」


「あら無理よ。だってここが繋がらないもの。巡る輪は切れなくても増幅には限界があるわ」


 子供の外見でライラが話に加わったため、周囲のざわめきが大きくなった。そこでやっと多くの視線に気付いたルリアージェが顔を上げて、ぱちくりと瞬きする。


「人が……沢山いるな」


「こんなところに魔法陣描いてれば目立つだろ」


 苦笑いするジルの整った顔に、悲鳴を上げて卒倒する女性が数人現れる。美形はいるだけで迷惑…ではなく、目の保養になり騒ぎの中心となるらしい。


「お店の麦酒はよく冷えるでしょうね」


 ライラの指摘に、顔を見合わせた3人はくすくす笑い出した。そんなつもりはなかったが、結果的に屋台のおじさんは儲かっただろう。甕の酒を冷やす魔力である人を集め、さらに客の呼び込みまで手伝ってしまった。


 先に立ち上がったジルはルリアージェへ手を差し出し、ふと気付いた女性に視線を止める。サークレラ国に多い黒髪の女性は、ふくよかな胸元に美しいネックレスをしていた。その宝石をじっと見つめる。青い民族衣装の色と合わせた青い石がきらりと光を弾いた。


「ちょっと……あなたのこと見てるわよ」


「格好いい人よね」


 女性2人のうち一方の胸元を見たまま動かないジルに眉を顰めたルリアージェは、目の前に差し出された手をぱちんと叩いた。我に返って振り返ったジルの前で、頬を膨らませたルリアージェがそっぽを向いている。呆れ顔のライラがルリアージェとしっかり手を繋いでいた。


「最低ね、ジル」


 何を咎められたのか理解できないジルは先ほどの女性を振り返り、再びルリアージェに視線を戻した。比べるまでもなく、ジルはルリアージェを選ぶ。しかし彼女はそう思わなかったらしい。


「気に入ったのなら、向こうの女性と出かければいい。私はライラと行く」


「ん? リア……もしかして、やきもち?」


「違う! どうせ私は胸がないからな」

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