第28話 迷惑すぎる来客(3)
コンプレックスを刺激してしまったらしい。民族衣装の合わせ目から零れそうな大きなふくらみを睨みつけるルリアージェは、刺々しい声でジルを切り捨てた。目を見開いて彼女の怒りを受け止めたジルの表情が、次第に緩んでいく。
「行くぞ、ライラ」
「ご愁傷様」
にっこり笑ったライラがルリアージェに手を引かれて、踵を返す。銀髪を揺らして足を踏み出したルリアージェの後ろから、ジルはそっと彼女に覆いかぶさった。身長差を利用して彼女の首筋に唇を押し当てる。周囲から悲鳴や歓声が上がる中、怒りの表情で振り返ったルリアージェの唇にキスを落とした。
「ん…っ」
ルリアージェの釣りあがった眦が垂れるのを待って、ジルは腕の中の美女に微笑みかける。
「ねえ、嫉妬してくれたの? オレがリアの虜だと知ってるくせに……」
ちっと足元でライラが舌打ちする。これ幸いと主を独占しようとした少女を、ジルは見えない場所で蹴飛ばした。気付かないルリアージェは真っ赤な顔で絶句している。
人前で接吻けなど、ルリアージェの常識にはなかった。
「ち、違うぞ」
「でも気に入らないんでしょ? オレが他の女を見たから? オレが気になったのは、胸元にあったネックレスの石だ」
言葉に釣られて振り返ったルリアージェは眉を顰めた。豊かな胸の上に乗っている宝石は青く、透き通っている。上質な宝石だが……鉱石じゃなく封印石だった。
「封印石か」
「そう、あれの気配に覚えがあって……知り合いかな?って思ったわけ」
「……ちっ、捨てられればいいのに」
不吉なセリフを吐き捨てるライラは、風を上手に操って声をジルにだけ届ける。聞こえなかったルリアージェは、ジルの言葉にだけ反応した。
「知り合い、なのか」
「たぶんね。でも簡単に封印される奴じゃないし、変だな」
唸っていたジルだが、すぐにルリアージェの銀髪に手を触れながら踵を返した。封印石の話など忘れたように笑顔で頬にキスを落とす。
「それより、花火を見るんだろ? 屋台で買い物して、ゆっくり見られそうな場所へ移動しよう」
「いいのか?」
「あの女から取り上げるのは簡単だけど、オレの配下じゃないから義理もないし……今はリアと花火見るほうが優先だぞ」
「あたくしとリアだけで十分だから、石のところへ行ってらしたら?」
「冗談だろ」
ライラの意地悪な提案を一蹴したジルに促され、ルリアージェは手を繋いだライラと歩き出した。ちらりと振り返った先で光る青い石が気にかかるが、豊かな胸に舌打ちしたい気分で目を逸らす。
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