第27話 思ったよりも単純な見落とし(6)
「まずは敬語をやめてください。それから…、孤児の話は初めて聞きました。すぐに調査させます」
彼が視線を向けた先で、執事が一礼して下がる。言葉通り、すぐに調べてくれるのだろう。これで孤児たちが少しでも救われたら……いいことをしたような気がした。安堵の息を吐くルリアージェの様子に、ライラとジルが顔を見合わせる。
目の前の蒸し菓子を半分に割ったジルが、まず片方を食べた。味が気に入ったのか、残りをルリアージェに差し出す。
「リア、これ美味いぞ」
「あとでもらう」
受け取った菓子を目の前の皿に置いたルリアージェに、肩を竦めたジルが声をかける。
「リア、あまり首を突っ込むなよ」
「どういう意味だ?」
振り返ったルリアージェの髪飾りの角度を直しながら、ジルは淡々と言葉を続けた。その表情は優しい微笑みを作ったままで、穏やかそうに見える。
「言葉のままだ。ここは
ライラは大人びた顔で頷いたが、何も言わない。長く生きたからこその忠告だった。人でない存在が、人の世界に口を出してはならない。長寿の種族にとって、不文律のように伝わってきた真理なのだろう。
そして、人でありながら関わることが出来ないルリアージェも、彼ら側に含まれる。人が人の命運を左右することは善悪はともあれ忌避すべき事態じゃない。裏を返せば、人外が人間を操作すれば世界のバランスが狂う。それが避けなければならない状況だった。
「……それでも」
「手が届く範囲くらいは、だろ? よく考えろ、リア。お前の手は世界中に届くんだ」
ルリアージェははっとした顔で両手を握り締めた。そう、彼女の手は世界中に届いてしまう。届かせる手助けをする存在がいるからだ。
ルリアージェが望めば、帝国を一夜にして滅亡させたジルが動く。彼を筆頭に大地の魔女ライラ、魅了のリシュア、白炎のリオネルと二つ名を持つ上級魔性が続いた。
彼ら一人でも世界のバランスを崩すに足りる存在なのに、複数集まってルリアージェの願いを叶えようとすれば……ルリアージェの手は世界の果てまで届くだろう。
「主とはそういう存在なんだよ。命じれば配下は世界への影響なんて考えずに動く。褒めてもらいたい一心で世界すら壊す連中だ。リアの一言は――オレの命より重い」
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