第27話 思ったよりも単純な見落とし(5)

「ああ、似合ってるんじゃね?」


「なんで疑問系なのよ!!」


 ケンカするほど仲がいい。そう感じて微笑ましく見守るルリーアジェは、どこか常識がずれていた。リシュアははらはらしながら双方を宥めているというのに。


「お2人とも、お茶でも飲んで落ち着いてください」


 このままでは口喧嘩から国難規模の大災害に発展しかねないと、リシュアは優雅にお茶を差し出す。受け取った茶器は少し開いた取っ手の無い形をしており、緑色のお茶が入っていた。


 知らないお茶だが、すごく香りがいい。


「緑茶というのですよ、この国の特産です」


 ルリアージェの疑問に答えるように、リシュアは全員分の茶器を用意し終えた。


 お茶菓子と一緒に勧められ、多大な好奇心を胸に口にする。爽やかな香りが広がり、続いて少し舌の上に苦味…最後にほのかな甘さが残った。不思議なお茶の味に目を輝かせるルリアージェへお代わりを注ぎながら、リシュアは色の違う目を細める。


「祭りはいかがでしたか? 夜まで戻られないと思ったのですが」


「そのつもりだったが、リアの艶姿が見たくて戻った」


 祭りでトラブルがあったかと心配するリシュアに、ジルは穏やかに答えた。さりげなく腰に回る手を、ルリアージェの隣に座ったライラが叩く。真ん中に座ったルリアージェの背中で、ライラとジルが譲れない戦いを密かに繰り広げていた。


「あと……」


 言いかけたルリアージェが迷う。赤い紅をひいた唇をきゅっと噛む姿に、ジルが溜め息を吐いた。彼女の懸念も言いたいこともわかる。だが、ジルが口にしたら命令になってしまうのだ。それはリシュアの1000年に渡る治世を否定する行為だった。


 大人が口を噤む中、子供の外見さながらの無邪気さでライラが沈黙を破る。


「さっきね、スリにあったの」


「え!」


 驚いたリシュアが立ち上がる。すぐに失礼を詫びて腰を下ろした。右手の拳をつよく左手で包む形で膝の上に置く姿は、憤っているように見える。もしかしたら心配しているのかも知れない。


 言葉を選んだルリアージェが諭すような響きで続けた。


「スリの少年は、多くの孤児を養っていると聞きました。この国の孤児は孤児院にいるのでしょう? なぜ孤児院に他国の子供は入れないのですか」


 執事や侍女たちが顔を見合わせている。どうやら彼らも知らない情報だったらしい。ということは、リシュアも現状を知らなかった可能性があった。


 色違いの緑の瞳を見開いた国王は、少し考えるように宙を睨んだ。わずかに眉を寄せる表情には、複雑な感情が浮かんで消える。


「ルリアージェ様」


「はい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る