第26話 祭りの後の大捕り物(5)

 ぺらぺら適当なことを並べ、肩を竦める。聴取で時間を潰す気はないと示せば、祭りの時期だけに衛兵も強く出られない。祭りによる観光収入は大きく、他国に妙な噂が広まったら目も当てられなかった。


「わかった。協力に感謝する」


「はい、お疲れさん」


 顔色ひとつ変えずに嘘を通したジルは、ルリアージェと腕を絡める。反対側の手を握るライラがにこにこ笑いながら促すと、そのまま現場を離れた。周囲の国民に聴取をしているが、同じ答えしか返らないだろう。何しろ、逃がすことを望んだのは彼らだった。


「お兄さん、さっきは助かった。これは礼だ」


 近くの屋台のおじさんが飲み物を差し出す。泡の出ている透明な液体は、アルコールの匂いがした。どうやら酒らしい。少女のライラに気付くと別のコップを差し出した。


「お嬢ちゃんはこっちか」


「ありがとう」


 礼を言って受け取ったコップの中身は白く濁っており、甘い匂いがした。


「甘酒って言ってな。肌にいいぞ」


「肌にいいの? なら、リアにあげるわ」


 ライラは無邪気にコップを手渡す。解いた手に受け取ったコップを恐る恐る口に運んだ。どろりとした飲み物だが、不思議とすっきりしていた。甘すぎず、飲みやすい。何より冷やしてあるので、デザートのようだった。


「美味しい。半分残したから飲んでみろ」


 ライラの茶髪を撫でて残りを返した。初めてなのか、ライラもゆっくりと口をつけて一気に飲み干した。コップを差し出せば、おじさんが回収する。


 炭酸の透明なコップは、ジルが飲んでいた。彼の言葉によれば強い酒なので、女性にはお勧めしないとのこと。素直に頷いておく。


 コップを返しながら、ジルはさらりと切り出した。


「ところで、さっきのスリを街の連中が庇う理由はなんだ?」


「……悪いことをしてるが、アイツは孤児を養ってるんだ。俺たちも食べ物を差し入れたりしてるが、金が足りてない」


 おじさんの暗い顔に、ルリアージェとジルは顔を見合わせた。この国は戦火に焼かれていない。戦自体も騎士や兵が行っており、ほとんど一般の民は参加していなかった。養いきれないほど多くの孤児が発生する理由がないのだ。


 これが他国ならばわかる。数年前まで激戦を繰り広げたウガリスやツガシエ国ならば、多くの孤児がいるだろう。リュジアンやアスターレンにも逃げた難民が流入していた。しかし離れているサークレラに難民は辿りつけない。


 食料やテントなど旅支度もない難民が、一番離れた西の国にたどり着く可能性はゼロに近かった。


「どうして、孤児が…?」

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