第26話 祭りの後の大捕り物(3)

 ライラが無邪気に尋ねると、店の親父さんが手前の籠を指差した。この中に入れるらしい。


「ああ、3つだ」


 ジルが応じて籠に入れると、親父さんが小額の硬貨を差し出した。受け取るライラが数えると、最初に払った代金の1/3に当たる。3人で食べて入れ物を返せば1人分が無料になる計算だった。


「随分返ってくるのね」


 正体を知らなければ、可愛らしい少女であるライラの弾んだ声に、店の親父さんが笑いながら仕組みを教えてくれた。


「王様のお達しでな。串や器を回収して使う店は、材料を安く売ってもらえるんだ。首都ここだけの仕組みだが、近々他の街でも始めるらしい」


「立派な考えだ」


「そうだろ、おれんとこの王様は最高だ」


 自国の王が褒められて、ここまで喜ぶ国民は少ない。それだけ彼が国民に対し、真摯に向き合った証拠だった。ジルがなぜか得意げな顔をしている。


「他のお店でも串や箸を返すと、金や物がもらえるからな」


 親切に教えてくれた親父さんに手を振り、他の観光客と同じように流れに乗って歩く。広く作られた道は舞った花びらで白く染まっていた。


「綺麗だな」


 何度も同じことを思い、何度も同じ言葉を呟く。それだけ見事な景色だった。見上げながら歩くルリアージェの肩に誰かがぶつかる。と同時に、ジルが動いた。


「いててっ」


 ルリアージェの肩にぶつかった青年の腕を捻るジルは、そのまま彼の膝を地につけた。ぐるりと回る形で押さえ込まれた腕が痛いのか、青年の顔色は青い。この国の民族衣装を着ている様子から、リシュアの国民だと思われた。


「ジル、やりすぎだ」


「何言ってるんだ、殺さないだけありがたいと思え」


 ぶつかったくらいでそこまで……そう思ったルリアージェだったが、民族衣装の袖から落ちた財布に眉を顰める。見覚えは無い、が。慌てて自分の懐を探ると、ローブの下でベルトに括っていた財布がなかった。巾着型の財布は紐だけが残っている。


「うーん、コレじゃないな」


 唸りながらジルがさらに腕を捻ると、暴れた青年の懐や袖から大量の財布が落ちた。その中に見覚えのある黄色い財布を見つける。


「あった!」


 拾い上げた財布は、無残に紐が切られていた。だが掏られたばかりだったため、中身は無事だ。ほっとしながら紐をベルトに結わえ直した。

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