第24話 花祭りでのご招待(7)
乳白色の柔らかな壁や天井、床は艶のある黒檀だ。高価な黒檀をふんだんに使うため、派手ではないが金額は計り知れない。
「凄いな」
封印石や魔石と呼ばれる宝石で飾る他国と違い、自然から得られる貴重な素材を生かした城に感嘆の声がもれる。ジルの城とは違った品の良さがあった。
ガラスの窓の内側に、特殊な紙を用いた窓枠が嵌っている。柔らかな明かりが差し込む廊下は、しんと静まり返っていた。まるで教会や聖堂のような凜とした空気が満ちる。
ひそひそと話をするのも憚れる厳粛な雰囲気だった。
謁見の間へ続く扉は開け放たれている。ほぼ正方形の部屋の奥で3段持ち上がった黒絨毯の上に、青年は立っていた。まだ若く見える。30歳前後だろうか。
絨毯の上に2客の椅子が用意され、人の身長ほどの大きな背もたれが目を引く。その椅子に座らず、王冠を被った青年は豪華なマントを翻して前に出た。
「扉を閉めよ」
王冠を被った青年の声に、騎士は一礼して扉を閉じた。途端に王冠を椅子の上に放り出し、マントを脱ぎ捨てて駆け寄る。腰まで届く長い黒髪は、よく見れば緑色の艶を帯びていた。神秘的な髪色は、サークレア王族の特徴として他国にも知られている。
「っ……」
驚いて礼をとるのも忘れたルリアージェを他所に、青年はジルの足元で膝を折った。そのまま黒衣の裾を持ち上げて接吻ける。騎士が忠誠を誓う姿にも、服従する下僕にも見えるが、青年の表情は歓喜に満ちていた。
「我が主よ、1000年の長き封印よりの復活をお祝い申し上げます。また過去の温情に御礼を……」
「リシュア」
淡々とした声で国王の言葉を遮る。先ほど人払いをしているからいいが、もし騎士や他の貴族がいたら大騒ぎだっただろう。それ以前に国王がどこの馬の骨とも知れない男に膝をつく姿の方が、大きな問題だったか。
「はい、我が君」
言葉を遮られても嬉々として応じるリシュアの前に、ジルは手を差し出した。驚いて顔を上げるリシュアの前で、ひらひらと手を振る。
「ほら、起き上がれ。リアがびっくりしてるだろ」
言葉もなく呆然と成り行きをみていたルリアージェは、突然名を呼ばれて肩を揺らす。苦笑いして「そうよね、こういう熱い奴なのよ」とぼやくライラに緊張感は欠片もなかった。
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