第24話 花祭りでのご招待(6)

 もしこの話をルリアージェがしていたら、必死でジルは訂正しただろう。ライラが来てからではなく、アスターレンで本性を見せた時からだ。ルリアージェがジルの羽を褒めたことが影響しているのだが、本人に自覚はなかった。


「なぜジルへ迎えを寄越したんだろう」


 ルリアージェの疑問に、魔族2人は小首を傾げる。彼らの姿から、ルリアージェの発言に疑問がわいたのだと知れた。


「どうした?」


 何か言いたげな彼らに水を向ける。長い黒髪の先を指先で弄るジルは素直に答えた。


「リアが疑問に思う理由がわからない」


「リシュアはジルの配下だもの、迎えを寄越すより自分が出向くべきだわ」


 大きく馬車が揺れる。沈黙が落ちた馬車の中で、ルリアージェは眉を顰めた。


「認識の違い、か」


「オレの魔力を感じれば、アイツは飛んでくる。だが確信が持てないか、立場的な問題があって動けないんだろう。別にリシュアに挨拶する必要はないけどな」


「それはそうよ。ジルが主だもの」


 ライラの価値観では、主であるジルがリシュアに呼ばれるという形式が気に入らないらしい。逆にジルは形に拘らないが、リシュアと再会する必要性そのものを感じていなかった。


 本当に自分勝手な種族だと実感する。人族が感じる不義理や失礼な行為も、彼らはそれほど重視しないようだ。その割りに相手の態度ひとつで激昂する。その境目が分かりづらい。


「国王ならば、うかつに動けないのかもしれないぞ」


 擁護するルリアージェに、ライラはすぐに意見を翻した。


「そうよね、あたくしも同意見だわ」


「……露骨な擦り寄りしやがって」


 歯に衣着せぬジルは不満そうに吐き捨てる。ルリアージェにしてみれば、彼の発言も言葉ほど棘を感じない。羨ましいと指を咥える子供のようで、微笑ましかった。


 ガタン、大きく馬車が揺れて止まる。ノックする音がして、外側からドアが開いた。


「お待たせいたしました。陛下がお待ちでございます。どうぞこちらへ」


 騎士達がルリアージェとライラへエスコートの手を差し出すが、ジルが遮った。馬車の階段を一段下りたところで止まり、ルリアージェに手を伸べる。受けた美女をゆったりとおろし、自分も後に続いた。


 残されたライラが不満げに頬を膨らませると、苦笑いして抱き下ろしてやる。ルリアージェと腕を組んで歩きだすジルを、騎士は恭しく案内し始めた。国王に相当厳しく言われているのだろう。国賓並みの扱いで城へと招かれた。


 テラレスは鮮やかな原色を好み、アスターレンは白や青、煉瓦色を中心に街を作る。ジルの城は漆黒で統一され、一部に淡い色を配した上品なものだ。サークレラは、今まで見たどの城とも違っていた。

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