第24話 花祭りでのご招待(3)
迷って魚の串を手に取る。三角が5つ重なった串揚げは、2種類の魚が使われていた。上を見上げればサークレラの白い花、木漏れ日が心地よい。
サークレラの木は寒い季節に葉を落とし、蕾と花だけが先に芽吹く。花が満開を過ぎると、徐々に葉が茂り始めるのが特徴だった。
「懐かしいな」
「そうね、よく神族の都で『お花見』したもの」
海辺で育ったルリアージェは知らないが、彼らは春のこの祭りを良く知っているらしい。長く生きたジルやライラにとって、形は違えど花を楽しむ祭りは懐かしい行事なのだろう。
「お花見?」
聞き慣れない言葉を尋ね返せば、ジルが2本目の串を食べながら話し始めた。
「元は神族の都に植えられた花木なんだよ。あいつらは白が好きだから、好んで植えてた。春先に一気に芽吹いて僅かな期間で花びらを散らす。その短い数日を花見と名付けた祭りで浮かれて過ごした。こうやって花の下に席を設けて、のんびり飲み食いするんだ」
紫色の瞳が細められた。過去を懐かしむジルの穏やかな様子に、ルリアージェは頬を緩ませる。壮絶な過去を聞いたので、こうやって懐かしむ姿を見せてくれるのは素直に嬉しかった。
「そうか」
穏やかな時間が過ぎて行くかに思われたが、大災厄たるジルに平穏と言う単語は似合わないようだ。3人の騎士がこちらへ歩み寄ってきた。
「そこの方々」
ベンチに座ったルリアージェ達の前で立ち止まった騎士は、丁寧にも身を屈めて話しかける。不思議なことに全員が同じ髪色だった。黒に近い濃いグレーの髪と瞳を持つ彼らは、顔立ちもどこか似ている。兄弟なのかも知れない。
「何でしょうか?」
相手が屈んでくれたため、立ち上がることなく返すルリアージェだが、騎士達はジルの顔をじっと見つめて膝を折った。明らかにジルを上位者と見て対応している。跪いた騎士達は頭を下げ、その中の一人が口を開いた。
「ジフィール様とお見受けします。主の命を受け、お迎えに上がりました」
「わかった、ご苦労」
平然と受け流し、ジルがルリアージェの腰を抱いて立ち上がる。ライラはしっかりルリアージェと左手を繋いで、同行する旨をアピールした。ジルは黒衣を捌いて、騎士に立ち上がるように促す。
「ジル、知り合いか?」
「彼らの主ってのが、リシュアだ」
「……つまり?」
ジルが封印される前の配下の名がリシュアで、ここにいる騎士の主なのだろうか。彼が封印されていた期間は長く1000年に及ぶ。状況が把握できなくて首を傾げた。
首を覆う長さの銀髪がさらりと揺れる。それを指先で掻き上げるルリアージェの唇に、ジルの人差し指が当てられた。
「あとで説明するから、彼らと移動しようか。目立ちすぎる」
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