第24話 花祭りでのご招待(4)
確かに目立っていた。周囲の人々は、騎士が傅く黒衣の青年と銀髪の女魔術師と少女に好奇の眼差しを向ける。3人がそれぞれにバラバラの特徴を持ち、貴族らしからぬ服装をしていた。
頷いたルリアージェの手を取ってジルが先にたち、ライラはぴょこぴょこと軽い足取りで後に続いた。道案内をする騎士達が示す馬車に乗り込むと、ようやく周囲の注目が切れる。走り出した馬車を守るように、3人の騎士は馬に
ライラが当然のようにルリアージェの隣に陣取ったため、向かいに座ったジルの機嫌が悪い。むっとした顔で狐尻尾の少女を睨んでいた。
貴族用の馬車なのか、中は豪華な作りになっている。地面の揺れも緩和されて、かなり乗り心地がよかった。深紅のクッションに寄りかかると、柔らかく身体を包み込まれる。
「説明してくれ」
ルリアージェの促しに、ジルは視線を外へ向けた。カーテンが飾られた窓は開いており、祭りの喧騒が届く。高い位置で括った黒髪が風に揺れた。
「リシュアはここの王族だ、たぶん今もな」
封印されていた間のことは知らないが……そう前置いたジルへ、ライラは肩を竦めて肯定した。
「あたくしが知る限り、ずっと国王よ」
「1000年前にサークレラ国はなかったはずだが」
ルリアージェの疑問に、黒髪を指先で弄るジルが説明を再開する。
「リシュアは1000年前の帝国滅亡の騒動に参加しなかった。理由は妻がいたからだ。人族の妻の寿命は短い。彼女と一緒に生きるため、争わなかったんだよ」
「あなたが追い返したと聞いたわ」
「そりゃ追い返すだろ。春の蝶と同じ寿命の妻を置いて参戦するようなバカ、ひとつ殴って放り出すしかないさ。オレが封じられる少し前に、あいつが我が子のために国を興すと聞いたのが最後かな」
なんでもないように話すが、ジルは貴重な戦力を追い返した。配下の一人だと言いながら、その扱いは家族や親族と変わらないように思える。微笑ましい気分で聞くルリアージェの頬が緩む。
「ジルが封印された後、彼の子がラシャータという国を興したわ。だけど4代ほどで隣国に滅ぼされてしまい、人族同士の争いだと傍観したリシュアは後悔したの。その後、見つけた子孫を中心にリチュアンセ国を興し、200年程でライカン国に名を変えたのよ。リシュアが保護したので500年弱続いたけれど、大陸大戦争で国々が統合されて分裂し、9つの国が乱立する今の姿になったわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます