第九章 魔の森
第23話 魔の森のお茶会(1)
冷たい風が心地よい。北は氷の大地を抜けた寒風が常に吹くと聞いたが、もっとも冷える国ツガシエであっても、ウガリスに近い国境付近は寒さも緩かった。
「リア、あたくしはサークレラのお祭りがお勧めだわ」
「ルリアージェ、オレもお祭りがいいと思うぞ」
口々に勧めてくるサークレラ国の祭りも気になる。年に1回だけ国を挙げて大規模なお祭りが開催されるのだが、他国の王族や有力者が集まってくるのが問題だった。
すくなくともお尋ね者なのだから、テラレスの王族が顔を見せる確立が高い場所は避けたいと思う。人間として当たり前のこの心情を、彼らは理解できなかった。
気に入らない相手がいれば吹き飛ばすなり、どこかへ転送すればいい。そんな物騒な提案をするジルに続き、やはり半分は魔性のライラもあっさり同意してしまった。彼と彼女にとって、強者である自分達の機嫌を損ねる存在はゴミ同然、排除するのに罪の意識がない。
「お祭り行かないなら、サークレラの祭り自体を開催できなくするぞ」
「待て、どうしてそうなる!」
ジルのとんでもない発言に、さすがにルリアージェも無視できずに口を開いた。
「だって……ルリアージェが」
「そうよ、リアが我が侭なんだもの」
なぜかライラもジルに同調する。
私の我が侭なのか、これは……お前らの我が侭じゃないのか? 思わず頭を抱えてしまう不運な美女は、仕方なく彼らに行き先変更を告げる。
「わかった、サークレラにいこう」
そもそも、ツガシエとウガリスの国境に現れたのは、ジルの転移によるものだった。祭りに行きたいのならばサークレラ国境付近に転移すればいいものを、彼は安全な座標だとしてツガシエの魔の森に降り立ったのだ。
幻妖の森のように移動する心配はないが、魔の森も人が踏み入らない。魔性や魔物が多く生息し、危険な場所として知られていた。事実、直接国が接していなかったテラレスの宮廷魔術師であるルリアージェ自身、危険だという話は何度も聞いている。
「ルリアージェ、これを着て」
濃紺のドレスの上に、魔術師のローブを羽織っていたルリアージェの肩にふわふわの毛皮が乗せられる。黒系のローブに合わせたのか、濃いグレーの毛皮は濃紺のドレスにも違和感がない。柔らかい手触りに、何度も手で触れてしまった。
「これは…」
「ああ、大昔に捕まえた……熊だっけ? の毛皮だ」
「違うわ、ジル。これは狼系の毛皮よ」
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