第七章 風の谷と大地の魔女

第19話 大地の魔女(1)

「ええ、古くからの知り合いなのよ」


 ひらひら手を振って応じるは、足元まで届く長い茶色の三つ編みを指先で弄りながらルリアージェに応じる。15歳前後の外見に、どこか大仰な言葉遣いが不釣合いだった。


「名前を呼ばれたら来ちゃうわよね」


 上級魔性には珍しく、彼女はではなかった。人間の耳がある位置に大きな水晶が生えている。透明な水晶は楓の葉に似た形をしており、新緑の鮮やかで大きな瞳とともに目を引く。感情に合わせて左右に揺れるふさふさの尻尾もあった。


「尻尾だ!」


 目を輝かせるルリアージェの適応力の高さに、ジルが頭を抱える。大災厄たるジルを連れ歩くならば、人ならざる者に恐怖心ばかり持っても益はない。だから好奇心が旺盛なのも、初めて見る現象や人外に興味をもつのも良いことなのだろう。


 分かっていても、知らない相手に警戒心が働かないのは問題だった。今後の苦労を思うと頭を抱えるしかないが……それでも離れる気はない。


「はいはい、後でな」


 主たちのやり取りを横目に見ながら、リオネルは気になる事実を確認にかかった。


「お久しぶりです、ライラ。ところで、私達のところへ来てしまってよろしいのですか?」


「あら、どういう意味で?」


 質問を返す彼女に、複雑な裏はなさそうだ。しかし、レンに水や風の魔王に傅く魔性を焚きつけられた身としては、彼女が現れたタイミングの良さに疑いを持ってしまう。


 1000年前の騒動前に名を馳せていた大地の申し子を相手に、リオネルは立ち位置を僅かに移動させる。さりげなくルリアージェを後ろに庇うジルとライラの間に入ったのだ。その用心深さに少女は声を立てて笑った。


「貴方ほどの実力者に、ここまで警戒されるなんて…あたくしも過大評価されたわね」


「前回は侮って失敗しましたから」


 リオネルはしれっと切り替えし、右手に炎を呼び出す。臨戦態勢に入った男に肩を竦め、ライラは大げさに手を振って嘆き始めた。


「ずっと退屈していたのだもの。少しくらい羽目を外したからって、邪険にしないで欲しいわ。考えてもみて――あたくしが魔王達に協力したのは、楽しそうな戦いに混ぜて欲しかったからよ? なのに終わってみれば、魔王は3人とも閉じこもってしまうし、貴方がたは封印されてしまった。誰もあたくしと遊んでくれる方がいなくなったの。どれだけ時間を持て余したことか。いっそ、あたくしも封印してもらえば良かったわ」

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