第19話 大地の魔女(2)

 舞台俳優さながら、大きな身振り手振りで嘆いた少女は、そこで大きな狐の尻尾をふさりと振った。白茶の毛が舞い散る。


「退屈に殺されそうなとき、懐かしい声があたくしの名を喚んだら……こうして損得なく顔を見せるほど、あたくしは暇だったのよ」


「あはははっ、お前らしいな」


 手を叩いて笑ったジルが、リオネルに手を振って下がるように命じる。一礼して従うリオネルの横を通り、ジルは左に立つルリアージェに声をかけた。


「ルリアージェ、こちらが先ほどの話に出たライラだ。大地の申し子と呼ばれる、まあ滅びた一族の末裔か」


「ルリアージェだ、よろしく」


 にっこり笑う美女は透明の足元を気にせず、膝をついて視線の高さを少女に合わせた。その仕草に一瞬だけ目を瞠り、子供は長い三つ編みを指で弄りながら笑う。


「丁寧な挨拶に感謝するわ。ライラと呼んでね、ルリアージェ……リアと呼んでも?」


「構わない」


「ええええ!!!」


 了承したルリアージェの隣で、耳が痛くなる大声でジルが拒否の声を上げた。


「そんなのダメ、絶対にダメ」


「……ジフィール、子供のような我が侭を」


「お前に言われたくない」


 言下に切り捨て、ジルは鼻に皺を寄せる。本気で嫌がっている姿に、ライラは少し考え込んだ。


「あと、今はじゃない」


 むすっとした態度で呼び方まで訂正してくる男を爪先から頭の先まで眺め、ライラはぽんと手を打った。2人のやり取りを見ていたルリアージェに向き直り、さっと手を出す。


「楽しそうだから、今度は貴女の味方になるわ。よろしくね、リア」


「あ、ああ。味方……?」


 首を傾げながら手を取ったルリアージェは握手しながら、隣のジルを見上げた。しかし彼は顔を顰めているし、リオネルは驚いた顔で固まっている。困って少女を見れば、背中でふさふさの大きな尻尾が揺れていた。


「あの……尻尾に触っても?」


「ええ、構わないわよ」


 少女が抱きつくのを受け止め、ふわふわの尻尾に手を触れる。思ったより大きな毛玉に幸せを感じながら、少女を抱き上げた。不思議なほど軽い。というより、重さをほぼ感じなかった。


「軽いでしょう? あたくしは精霊に近い存在なの。魔性と精霊の子供だから」


「種族を超えた愛の結晶、ということか」

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