第15話 命の対価(4)
「死神を狩れ」
「殺せ!」
彼らの憎しみが向かう地上の一点で、ジルは口の端に残る赤い血をそのままに笑みを作った。左腕の中に抱いた愛しい女を守るように、彼女を引き寄せる。
頭上から降り注いだ魔力による攻撃を、同じ魔力によって相殺していく。炎の刃を水の盾で防ぎ、氷の矢を炎で溶かす。繰り返される魔力による攻防は、消耗戦だった。
「……うるさい連中だ」
苛立ちのままに魔力を揮う。ジルが本来もつ魔力をすべて使えたなら、上級魔性10人程度は一瞬で片付けただろう。かつて魔王3人を相手取って戦ったこともあった。
封印が不完全に解けたため、今のジルが使えるのは全盛期の1割ほど。庇うルリアージェの存在がなければ、もっと簡単に相手を
決定的な切り札がない戦いは
ジルが懸念していたのは頭上の魔性達ではない。『代償』と引き換えに
封じられた1000年の間に現れたとしたら……。
「面倒くさい」
ぼやいたジルが美女から一瞬目を離した。己の腕の中ならば安全だと高を括ったのだろう。新たな敵の可能性が、ジルを焦らせた。
右手を掲げて攻撃の魔法陣を宙に描く。
青白い光を帯びた魔法陣は、光る文字が次々広がっていく。誰かの手で描かれたように複雑な文様と文字が並ぶ魔法陣は外へ広がり続け、破壊された噴水を覆うほどの巨大な円を作り上げた。
防御のための魔法陣ではない。彼らの魔法を防ぐなら、魔法で用が足りた。ジルからの反撃を悟った連中が慌てて攻撃の密度を高める。爆発的な炎と風が押し寄せた。
魔法陣の文字の隙間を縫って、炎が吹き付ける。風の刃がジルの右手を傷つけた。魔法陣構築にほぼすべての魔力を注ぎ込むジルの頬に一筋の傷が走る。赤い血が滴った先を何気なく目で追ったジルは、息を呑んだ。
あってはならない。
誰も彼女を傷つけてはならない。
ルリアージェの腕に走る赤い線は、じわじわと太さを増しながら赤い涙を零した。伝う血の色に、ジルの声が震える。
「リ……ア?」
次の瞬間――
魔力が爆発した。
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