第13話 アスターレン王宮炎上(8)

「……私のためだ」


 少しだけ、魔性の纏う空気が和らぐ。それはルリアージェが選んだ答えを、ジルが気に入った証拠だった。


「な……っ、弟を見捨てるのか」


 王太子の呟きが聞こえ、ルリアージェはぎゅっと左手で胸元を掴んだ。用意されたピンクのドレスはライオット王子が選んだもので、それを身に纏う者が彼の命を切り捨てるような発言をしたのだから、王太子の反応は当然だった。


 逆の立場なら、自分も同じように責める。


 意味もわからず追い詰められた人間側からみたら、ルリアージェの答えは不正解だ。しかし、魔性であるジルには満足できる選択らしい。


「ルリアージェは優しいな……」


 彼の冷たい手が銀の髪を撫でる。その感触に覚えがあった。親が我が子を慈しむような、穏やかで温かな感じが伝わる。実際には冷たい、人外の手だというのに。


「人間風情を助けるために、己を差し出すなんて――それじゃ、テラレスの時と同じだ」

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