第四章 王宮炎上

第13話 アスターレン王宮炎上(1)

 王宮にまで響く轟音と振動に、慌てて湯から出る。駆け寄った侍女から服を受け取ると、魔法で髪と身体を乾かして着替えた。


 用意されていたドレスは後ろで結ぶリボンがついており、急いだ侍女が次々とリボンを結ぶ。驚くほど手際は良いが、褒めている時間はなかった。


 走り出した廊下は、騎士や侍女が走り回っている。普段はそんな無作法が許されない立場の彼らが、ここまで混乱するような事態が起きたのか。


「いったい、何が!」


 疑問系ですらない声が零れた唇を噛み締め、窓の外の巨大な竜巻に目を奪われる。廊下に日差しを取り込むガラス製の窓から見える景色は、散々たるものだった。


 美しかった前庭はさきほどの戦闘で破壊され、その向こうに広がる町並みは瓦礫の山だ。白い壁と煉瓦に似たオレンジの屋根が自慢の市街地を、竜巻が進んでいた。


 いや、竜巻と称するには違和感がある。


 なぜなら、壊れた街の間を竜巻が追いかけている形だった。普通は竜巻の風が触れたところから障害物を壊し、周囲の物や人間を巻き上げる。なのに、竜巻の前方が破壊されていた。


 まっすぐな道のように破壊された場所を、竜巻がゆっくり追いかける。自然現象ではあり得ない景色だった。それ故に、最初に疑ったのは……魔物による襲撃だ。


「魔物……いや、魔性か?」


 目を凝らすルリアージェの唇が紡いだ言葉に、侍女が目を見開く。彼女の役目は客人であるルリアージェの接待であり、今は避難させることも含まれていた。


 整った顔立ちと珍しい色彩の美女から飛び出した発言は、予想外のものだ。


「魔性……?」


「ああ、間違いない」


 中心に感じる魔力は強大だ。上級魔性であることは間違いない。その魔力に多少の揺らぎがあるのも感じ取るが、理由はわからなかった。


 実際は封印から解放された魔力と霊力が相殺し合っていたのだが、記憶のない彼女にそんな特殊な原因を読み解く知識はない。


「宮廷魔術師殿は?」


「あ、あの……殿下方と大広間に」


 最後まで聞かずに走り出す。普段のワンピースやローブと違い、丈の長いドレスは走りにくい。淡いピンク色のドレスのスカートを摘んで、素足を晒したまま走り抜けた。


 用意されていた靴はヒールが高く、結局脱いでしまう。放り出した靴を拾って追いかける侍女を置き去りに、ルリアージェは大広間の前で足を止めた。


「何者だ!」


 騎士の誰何に、答える地位も名前も持たない。それ故に、ルリアージェは無礼を承知で大きな扉に声をかけた。


「ライオット王子殿下! 私です、リアです!!」


「やめぬか、ここは王族の方々が………っ」


 注意する騎士の手が肩に触れる。向かって右側に立っていた騎士が歩み寄り、ルリアージェの無礼を咎めるように両手を拘束した。

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