第11話 彼の本性(3)

 だとしたら、ジルはどうやって魔法陣を動かしたのか。



 檻があった場所、宙に浮いた青年は黒髪を弄りながら口を開いた。


「この魔法陣、魔力じゃなくて魔法を封じる。つまり魔術を駆使して魔法陣を動かすオレは対象外だ。ちなみに、この方法は見物に来た氷使いの攻撃で思いついた」


 丁寧にも説明してやったのは、彼女の絶望を深めるため。


 オレを捕らえたと自慢するために呼んだ魔王の側近、彼の安易な攻撃で魔力の巡りに気付いた。だから利用する。


 魔法は使えても魔術に手が届かない、魔性を従わせる女王ヴィレイシェを高みから嗤う手段として、ここまで手間をかけた。


 この身を封じた彼女へ最低限の礼儀として。



 仮にも二つ名を持つジルを、一瞬とはいえ留まらせた魔性への報復としては……軽すぎる。


 彼女の命と引き換えに出来るほど、安いプライドではなかった。だから普段より手をかけて、『復活した』狼煙がわりに、より残酷な方法で蘇った恐怖を伝える。それ故の手法だった。


「っ……う、ぁ、やぁああ! あ、ぃやっ」


 言葉にならない悲鳴が空間を満たす。音楽代わりに耳を傾け、助けに駆けつけようとする彼女の部下を弾く魔法陣を作り出した。


 手の中で美しく回る魔法陣を満足げに眺める。



 すっと転移で距離を詰めて、虫に身体を蝕まれる美女の耳元に囁く。


「――終わりだ、ヴィレイシェ」


 多少の退屈しのぎにはなるが、敵になるほどの実力はない。


 助けを拒絶するための魔法陣を、美しい彼女の胸の上に刻んだ。白いドレスから零れだしそうな豊かな胸元、鎖骨の下から掌ほどの魔法陣が肌を焼いて浮かび上がる。


 これで助けはなくなった。


 この部屋からの転移は不可能、部屋へ転移することは可能だが……彼女を助ける目的では転移が拒絶される。


 外でやきもきしているだろう部下達が部屋に入れるのは、ヴィレイシェが食い荒らされ絶命した後だ。


 不覚にも閉じ込められた不自由さとこのオレを見下した礼として、女王の命ひとつでは足りなかった。それ故に、八つ当たりを承知で彼女の部下を巻き込むのだ。


 敬愛する主を害され、何も出来ずに嘆くといい。


 そこで思いついて、ジルは彼女に刻んだ魔法陣を肌の上で書き換えた。



 これでいい。


 端正な顔を極上の笑みで彩り、肉を肌を命を虫けらに食い荒らされる上級魔性を覗き込んだ。


 もっと苦しめばいい。もっと嘆くといい。


 このオレに手を出したことを悔やみながら、死ね。


「久々に、愉しい遊びだったぞ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る