06*建国記念の日は国ツ神も休む
2月12日月曜は建国記念の日の振替休日で3連休。
紀元前660年1月1日が日本の建国で、新暦で2月11日を建国記念の日とした。天ツ神が中ツ国を治めた日。建国を偲び、祖国を愛する心を養う日。神話の建国を記念日にするんだ。神話(神代)は現実(現代)は続いてる。ビックリ。
オオクニヌシさんに中ツ国を譲ってもらい、日向国に降りて1792477年後。天ツ神は、東方に良い処があるから行ってみようといい、7年後に天ツ神は中ツ国(とりあえず大和国だけ)を治めた。
もうひとつ。現代に続いてる記念日がある。飛鳥時代に始まった収穫祭の日(勤労感謝の日)。収穫祭は正しくは新嘗祭といい、とても大事な日らしい。
「うーん。飛鳥時代って、いつ?」
「な、なぜ、スクナヒコは、女子(オナゴ)の膝上で、オ、オレが、棚上なんだ」
網棚のクエビコさんの視線が痛い。
「神棚と思えば、よろしいかと」
トミビコさんのフォロー。なんとなく網棚に手を合わせる。
「だ、だいたい、スクナヒコは邪魔だから、お、置いてくるべき」
「クエビコ殿、あまり喋ると怪しまれます」
私達は山陽新幹線の車中。片道7時間の1泊2日の弾丸旅行。飛行機で行きたかったけど、3人分の旅費はきついので。スクナヒコさん、キューピーちゃんで良かった。
「ナ、ナットクのできない扱い」
カカシのクエビコさん、置いてくれば良かった。
「オオクニヌシさん、黄泉って島根にあるの?どんな処なの?」
「根ノ国は中ツ国のクマノと通じ、クマノはイヅモにあります」
「れ、霊魂の眠る常夜ノ国、根ノ国、そ、底ノ国だ」
「眠るだけ?……じゃ、起きたり、生き返ったり、ほら、ヨミガエリっていうじゃない」
「還るのは天ツ神だけです。国ツ神や人は根ノ国でしばらく留まり、逝きます」
「も、殯ノ国と、いう」
「結局は死んじゃうわけね。いいね、天ツ神は死ななくて」
「天ツ神も黄泉大神イザナミ様の神威がなければ還れません」
「国ツ神なのに、オオクニヌシ殿だけが甦りました。オオクニヌシ殿は特別扱でございます。贔屓です」
トミビコさんが拗ねる。なにかあったのか。
「ね、ねえ、中ツ国は、昔は国ツ神が治めたんでしょう。やはり神様はすごいね」
「神と人の違いは神威の有る無しだけでした。神威が有るから偉い、無いから偉くないというわけでありません。ただ、無い人にとり、有る神は畏怖となりました。世界の道理が整えられたとき、別天ツ神が神と人の居る領域を別けました。昼ノ国と夜ノ国です。国ツ神が中ツ国を治めたのはここまでです。古の戦で、天ツ神は国ツ神に夜ノ国に隠れるように、世界の道理を守るように命じました。ここからは天ツ神の天子神、天孫人が昼ノ国を治めます。ただ、人も神威や神意を求めるときがあります。そのときは神籬(カムガキ)で神域を作り、祭を行います。神域内だけ、神は昼ノ国に現れ、神威や神意を授けました」
「神籬?」
「昔の人は、人の入れないような山の奥に神が隠れ、そこにある奇岩や高木に神が憑ってると思ってました。憑代、神代といい、目印に注連縄(標縄)を巻きました。スクナヒコの人形も憑代です。やがて麓の河原に、神と、神意を聞く神人が共に居られるように注連縄(尻久米縄)で結界を張り、神域を作りました。神籬といい、榊や松で四方を囲んだ擬似森です。神は河を泳いで山を降りたらしいです」
みんなが笑う。
「ま、祭の始まりだ。祭のための屋代(ヤシロ)が、た、建てられた」
「恩恵の御礼を言う祭です。農耕が始まって村ができると、人は、神は山に隠れてるでなく、天から山にある憑代へと降り、河を泳ぎ、田畑に入り、穀物に宿り、そして秋になると山に、天に還ると思いました」
神様のトライアスロンね。
「農耕に必要な陽や雨は天の神の神威、豊作や凶作は神意でした。狩猟、漁労、採集を司る地上の八百万の神々から、農耕を司る天上の、最も神威の強い陽の神(日神)へと信仰が変わりました。陽の神の神意を聞く巫は、村の最も偉い神人になりました」
シャーマンか。
「山にある憑代に行ったり、祭のたびに屋代を建てたりとたいへんだったので、憑代の処に山宮(奥宮)を作り、麓の村に里宮を作りました。遠い山宮に御礼を言いました」
「や、やがて常時祭祀のための社が、む、村に建てられた」
「そうです。1年に1度だけ、恩恵の御礼を言うための祭を行ってましたが、御礼以上に、日乞い、雨乞いを願う祭事、村人をまとめる政事を行うたびに屋代を立てるのはたいへんだったのでしょう」
「ま、祀る人の、かってな都合に、か、神が、合わせる」
口の処のへの字を顰める。
社は、調べると古代中国の地縁的社会の土地神を祀る処。天ツ神のために建てられた御屋(ミヤ)も、やはり古代中国の宮。宮処(ミヤコ)も都。仏教の寺院以前の神社も古代中国の影響だ。
「仏法を信じ、神道を尊ぶと言いますが」
オオクニヌシさんが笑う。
「姫。その物は携帯電話ですね」
トミビコさんがスマホを見つめる。
「ス、スマートフォンだ。略してスマホ。トミビコのいう昔の携帯電話は、い、今はフィーチャーフォン、またはベーシックフォンという。お、女子はガラケーという」
クエビコさんは、いったい何者?……カカシだけど。
「神人というのは?」
「神威の無い神です。神代から人代へと変わり、神も代々と継がれ、神威は衰え、無くなり、人が産まれました。神の神意を聞ける人は巫覡となり、神人となりました」
「神威はどんな力なの?」
「神の威力といいますか、奇跡の力です」
ツッこめない、都合のよい異世界モノの設定だ。
「説明が難しいですが、神意、つまり神の言霊です」
まったくわからない。
「天ツ神は神威も強く、不老不死で、時空を翔べます。国ツ神は弱く、時空は翔べません」
天ツ神は時空間移動(瞬間移動)ができる。国ツ神は空間移動(飛行移動)はできる。しかし神威の強弱差がある。時空間移動は距離、空間移動は速度。オオクニヌシさんは国ツ神だけど、天ツ神なみの神威がある、という自慢話か。トミビコさんが拗ねる。
「隠世はどんな処なの?」
「昼ノ国と同じ中ツ国でございます。ただし光のない世界、だから人に見えません。姫、例えば鏡は光がなければ映ってる物は見えませんでしょう」
さっぱりわからない。
「じゃ、見えないだけで、そのへんに神様はいるってこと?」
「こ、この車中も、居る」
「じゃ、隠世に隠れてるときは無賃乗車?」
「言われれば払います」
言いながらオオクニヌシさんはクエビコさんを睨む。
「見えなければ言えないじゃない。神様としてどうなの?……あ、今日も隠れてくればよかったじゃない?」
「ツクヨミ様と会話を楽しみたいのです」
私も隠れたらよいのではと言いたいけど、ツッコんで、僻んで、ナムジさんに変わられたらめんどいので言わない。
「後で払ってよ」
「……」
「黙ってたら会話を楽しめないでしょう。貧乏大学生のバイト代を所造天下大神(アマノシタツクラシシオオカミ)が遣いこんでいいの?……トミビコさんも」
「ぐーぐー」
「寝たふりしない。喋ってよ」
「オ、オレが……」
「クエビコさんは喋らなくていいから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます