薬師(笑)の異世界冒険譚
Oz
第1話 なるほど。これが異世界転移ってやつか。
「…の。」
どこか遠くで、知っている誰かの声が聞こえる。
でもごめん。すごく眠い。
「のの。……て。」
んー……なんて?
誰だっけ。この声は。
知っている。でも、思い出せない。
眠い。宿題が終わらなくて徹夜をしたときみたいだ。瞼が重くて、開かない。
「のの。のの?」
「んー。あと五分……」
ごっ!!
「うぎゃぁ?!」
痛い!何?何?!
目を開ければ、先ほどまでの眠気が嘘のように晴れた。
そして、目の前には私の親友の
「グーはないよ!あかねちゃん!」
私、
「あんたってやつは!何があと五分よ!みんなが倒れてて、ここがどこだかもわからなくて、すごく焦ってたんだからね!!」
「……へ?」
あたりをみる。そして気がつく。
「……知らない天井だ。」
「あんたってやつは……。」
あかねちゃんの言葉が私の心をえぐる。先ほどのように、心配からくる言葉ではない。心の底からがっかりした声だ。
私はどうやら、真っ赤なふかふかの絨毯の上に寝転んでいたらしい。壁はレンガで、窓には何やらきれいで高級そうなステンドグラスがはめられている。
たくさんの長いすや、奥には何かの像がおいてあり、神々しい雰囲気がただよっている。私は、友達に連れて行ってもらった教会の様子を思いだした。
そして、真っ赤な絨毯の上には、クラスメイトが転がっている。
何言ってんの?と、思うだろう。私もそう思う。
「うわ、ひでえ……」
「……のの、言葉遣い。」
あかねちゃんはあきれた声で私に注意をする。
「……とりあえず、みんなを起こす?」
私がそう言うと、あかねちゃんははっとしたように頷く。どうやらかなりパニックになっていたらしい。
クラスメイト達を起こしながら、私は、先ほどまでの記憶をたどる。
……確か、さっきまでは教室にいたはず。
_______________
「あかねちゃーん、へるぷみー!」
「……のの、今日は何があったの?」
今朝も、あかねちゃんと楽しく談笑していた。
女子剣道部の副部長のあかねちゃんは、長い黒髪をポニーテールにしている。かなりの美人さんだ。道を歩けば、十人中四、五人が振り返るくらいの。
以前、私がそう褒めたところ、「ほめてんの?それとも喧嘩売ってんの?」と聞かれたことがあるので、もう二度と(あかねちゃんには)言わないと誓っている。
性格は、知らない人にはキツイ人と思われがちだが、なんだかんだ言って、やさしい。嫌いな人には堂々と「嫌い」と公言するし、他人にも多少は厳しいが、何よりも自分に厳しいことを私はよく知っている。
一部女子にもファンがいるとか。
ちなみに私は道を通っても誰も振り返ることはない。不細工でもなければ、かわいいともいえない、あかねちゃんに言わせれば、「モブ顔」だ。その発言でけんかになったことは触れないでおく。
染めてはいないが、やや茶色気味の髪の毛。肩くらいまでの長さだ。
性格?あかねちゃんには「底抜けの阿呆」と言われたことがある。失礼な。
私は口を開く。
「秋田屋のメロンパンが買えなかったの!!」
「あー。あんたがいつも昼ご飯にしているやつよね。」
「もう生きていけない!」
「え?死ぬの?」
「死なない!」
いつも通りの問答。いつも通りの光景。
「秋田屋のメロンパンって、そんなにおいしいの?」
「当然!帰りに食べに行こうよ!」
「はいはい、そこ。さりげなく校則違反をしようとしない。」
いつの間にかいた担任の先生に怒られて、周りの人に少しだけ笑われて、
えーっと、そのあと……
教室の床に、光る魔法陣が現れたのだっけ?
_______________
「いやー、考えれば考えるほど意味が分からないことが起きたものだねぇ。」
「……今の状況で冷静でいられるあんたって、案外大物なのかもね。」
私が「ほめてる?」と聞けば、あかねちゃんは「ほめてない。」と答える。ツンデレめ。
クラスのみんなは目を覚ましたようだ。ここにいるのは、私を含めて二十八人の生徒と、担任の前田 聡志先生(37歳妻と子持ち)。
頭をこすったり、友達と話したり、皆この現状に混乱をしているらしい。
前田先生はポケットの中からスマホを取り出して、どこかに連絡をしようとするも、できないらしい。困惑した表情を浮かべている。
部屋の中がざわざわとしだしたとき、私の後ろにあった、重そうな木の扉が、ごとりという音を立てて、あいた。そのあと、ごつっという音もなる。
___何でこちら側にあいてくんの?
私は、後頭部を押さえる。
みんなに微妙に笑われたのが少し悔しい。
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