第二十五話 決着

「リトヴァの身体を奪う」


 ユリウスは不敵な笑みを浮かべてそう言った。

 リトヴァの身体を奪えば、リトヴァの魂は居場所がなく死ぬしかない。

 リトヴァを怨み続けたユリウスにとっては一石二鳥ではあるが……。


「成功しても、殺したいほど憎い奴の身体で生きていかなきゃいけないんだよ? いいの?」

「良くはないな。だが、それは俺に与えられた罰だと思うさ」


 浮かべている表情は憂いを含んでいたが、目には覇気が戻っていた。

 以前夢のようなもので会ったユリウスは亡霊のようだったが、今は人として生きていたこ頃のユリウスのようだ。


「そっか。成功、出来るんだよね?」

「ああ、必ず」


 力強く頷いてくれた。

 素敵過ぎる。

 これが本来のユリウスなのだろう。


「で、具体的にどうするの? 私は何をすればいいの?」

「君はただ、見守ってくれればいい」

「何もしなくていいってこと?」

「ああ」


 ユリウスの意気込みに触発されて私も気合入れようとしたのに。

 楽といえば楽だが少し寂しい。

 私、空回り。


「分かった。応援してる!」

「ありがとう」


 眩しい笑顔で微笑んでくれた。

 がふっ!

 これが……これが本物のキラキラ攻撃だ!

 偽者の私が調子に乗ってやるのとは全く違う!

 破壊力が半端ない!

 同じ顔なのに!

 動機息切れを起こしつつも、私はしばらくユリウスに身体を預け、意識下で休むことになった。


 とはいっても意識はあるし、ユリウスを通して視覚や聴覚などの感覚も分かる。

 身体を動かす権利をユリウスが持っているだけ、という感じだ。


 意識が覚醒し、身体を起こす。

 実際にも意識化でいたような魔法陣が描かれた洞窟の中にいたようだ。

 ユリウスは早速リトヴァの身体を奪うために動くらしい。

 影をリトヴァの気配の近くに繋ぎ、一気に移動した。


 ふむふむ、そういう移動の仕方があるのだな。

 勉強になります。




 ※※※




 移動して出た先の景色には見覚えがあった。

 見覚えというよりこの空気感、雰囲気に覚えがあったのだ。

 リトヴァとユリウスが初めて出会った場所、ルフラン荒野だ。

 あれからどれ程の時が流れたのかは分からないが、時の流れを感じさせないくらい当時と同じ景色が広がっていた。


 ユリウスが緊張しているのが分かる。

 ピリピリ張り詰めた空気が漂っている。

 ここから全てが始まったのだ。

 ユリウスの中に色々な感情が渦を巻いている。


 ――落ち着いて。見ているから、頑張って。


 ユリウスに声が届くかは分からないが祈るように想いを送った。

 するとユリウスが微かに微笑んだような気がした。

 届いたのだろか。


 負けるなユリウス、私がついているぞ!

 私は君の応援団長だ!

 エイエイオー!


「くっ」


 ユリウスが俯いて声を漏らした。

 あれ、笑っています?

 あんれー、ひょっとして心の声が駄々漏れでした?

 締りが悪くてすみませんねえ。

 ゆるゆるなんです、私。


「くっ……頼むから」


 ユリウスは聞き取れないくらい小さな声で呟いた。

 静かにしてくれ、って?

 分かりました。

 ちょっとしょんぼりしました、私。


 でもこれからユリウスが大一番を迎えるというのに、緊張感がなくて本当に申し訳ない。

 大人しく正座待機である。

 落ち着きを取り戻したユリウスは足を進めだした。


 少し先に大きな存在を感じる。

 間違いなくリトヴァだ。

 ユリウスは嫌悪感でいっぱいだ。

 ……本当に嫌いなんだな。

 いや、嫌いなんてレベルじゃなくて、ユリウスが抱いているのは完全に殺意だ。


 なんだか怖くなってきた。

 これからどんなことが起きるのだろう。

 ユリウスが昔見せられていた悪夢みたいなのをまた見せられたら、自分も同じように体感している感覚になるのだろうか。

 怖い、物凄く怖い!


「大丈夫」


 ユリウスが再び小さく呟いた。

 また駄々漏れでした?

 ごめんなさい……。

 でも、今の一言が心強く感じた。

 ごめん、疑って。

 ユリウスを信じる。

 ユリウスは少しペースを上げ、リトヴァの元へと足を進めた。






 銀の美女は満月を背に、足を組んで優雅に岩山に腰掛けていた。


「随分久しいな、我が番殿。お前の方から来るなんて、明日は嵐か?」

「お前を殺す手立てが出来た」


 ちょっと!?

 ユリウスはリトヴァの挨拶代わりの会話も流し、本題に入った。

 入ったというか、それ、本人に言っちゃっていいの!?


「ほう? 聞こうか」

「話すことは何もない。俺についてこい。そこでお前を殺す」

「大人しく従うと思うか?」

「逃げるのか?」


 ユリウスとリトヴァの間に静寂が流れる。

 風が吹き、砂埃が舞い上がる。

 その様子を私は爆発しそうなくらい動悸を起こしながら見ている。


「ふふ、安い挑発だな。だがいいだろう。番殿のおねだりだ。聞いてやるのも妻の務めというものか」

「……ついて来い」


 ユリウスは影を渡り、さっきまでいた洞窟に戻ってきた。

 リトヴァは大人しく従い、ユリウスの後を追って洞窟にやってきた。

 辿り着いた足元には魔方陣。

 ユリウスとリトヴァを乗せ、光を放ちながら発動した。


「ふむ、これで何をしようとするのだ?」

「もうすぐ分かるさ」


 リトヴァは抗うつもりはないようだ。

 やがて魔方陣は強力な光を放ち、洞窟を白で埋め尽くした。


 光が収まり、そこに現れたのは横たわる銀の美女。

 そしてもう一人は……。


「あれ、私は……ユリウスに戻ってる?」


 私はユリウスの身体に戻り、ユリウスの身体を動かしている。

 ユリウスの意識は……?

 意識の無い銀の美女を見る。


 あそこ……?




 ※※※





「驚いた。これは精神世界か」

「まあ、そんなところだ」


 ユリウスとリトヴァは、リトヴァの意識下にいた。

 景色は相変わらず、ついさっきまでいた場所と同じ光景。

 洞窟の中の魔方陣の上である。


「それで何をするつもりだ」

「お前の身体を俺が貰う。お前は消えろ」


 リトヴァは瞬時にユリウスの言っている意味が分かった。

 この精神世界でユリウスが残り、リトヴァを消す。

 するとリトヴァの身体はユリウスのものとなり、リトヴァは消える。

 つまり死ぬのだ。


「我の身体が欲しいだなんて、随分と情熱的ではないか」


 リトヴァは軽口を言いながらも衝撃を受けていた。

 確かに不老不死の竜だが、ユリウスの思い通りになればリトヴァは死ぬことになるだろう。

 気がつけば自分は存在していて、今まで途方も無い時間を生きてきたが、初めて『死』というものと対面することになった。

 不思議な感覚だった。

 なんと表現していいのか分からない。

 落ち着かない感情が湧いた。

 この感覚も初めてだった。

 面白い。


「やっぱりお前を番にして良かったよ」

「いい加減、俺の前から消えてくれ!」


 ユリウスはリトヴァに斬りかかった。

 初めてリトヴァと会った時は弄ばれるしかなかった。

 人の中では強者だったユリウスも、竜の前では赤子同然だった。

 だが今は違う。

 竜の力を手に入れ、長い時間の中でユリウスは追いついていった。


 今ならやれる、そう確信していた。

 リトヴァはユリウスの剣の斬撃をかわし、一歩後退した。


「随分と気合が入っているじゃないか。これは中々……楽しめそうだっ!」


 後退した足をすぐさま前進に切り替え、ユリウスの攻撃よりも早い手刀の斬撃がユリウスに襲いかかる。


 手刀とは考えられない威力の攻撃だ。

 だが重さは――、威力はユリウスの方が上だ。

 速さではリトヴァに勝てないと悟ったユリウスは動作で誘い込み、攻撃を仕掛ける戦法を始めた。

 少しずつリトヴァを傷つけ、体力を削る。

 十分互角に渡り合えている。

 ユリウスは竜になって、これだけは良かったことだなと思っていた。


 だが、互角には戦えているが上回ることは出来ていない。

 相手に痛手を負わせても自分も同じように傷を負っている。

 これでは進まない。

 事態が動かない状態に焦りと苛立ちばかりが募っていく。


「番殿と戯れることが出来て嬉しいよ」

「黙って消えろ」


 リトヴァは上機嫌で楽しそうだ。

 余裕がありそうな様子を見てさらに怒りがこみ上げて来た。


「ああ、そういえば今お前の身体はどうなっているのだ? まさか、我の身体を乗っ取った後は自分の身体を消すつもりではないだろうな?」

「お前には関係ない。お前と違って信頼できる人物が使ってくれる」

「ほう……?」


 リトヴァの顔から笑顔が消えた。


「それはどこの馬の骨だ?」

「お前には関係のないことだ」

「お前に関わることなら関係あるさ。我の許可なく勝手なことをされては困るな」


 言い終わると同時に凄まじい殺気が放たれた。

 同じ竜であるユリウスが怯んでしまうほど激しい殺意だ。

 まだこいつの領域に届いていなかったか、とユリウスは自分に失望した。

 そして次の瞬間、ユリウスの視界は暗闇に染まった。




 ※※※




 魔方陣の外から恐る恐る横たわる銀の美女を観察する。

 恐ろしくて近づくことは出来ないので、岩陰からこっそり某家政婦のように覗く。


「あらやだ、死んでる……なんちゃって」


 ユリウスの身体で遊んでしまった。

 俺様イケメンがこっそり覗きをしている姿だけでも、残念な事この上ないのに。

 緊張感がないのは自分でも重々承知している。

 でも、暇なんだもん!


 ユリウスがリトヴァを連れてきて三時間程たった。

 待っている間、ユリウスの長い髪を色んな髪型にして遊んだり、地面に石で傷をつけて『打倒鬼嫁! ユリウスファイト!』と書いたり、絵を描いたりしたが飽きてやめた。


「ユリウスさーん、まだですかー」


 呟いた瞬間、白く光っていた魔方陣が黒く光りだした。

 今まで感じていた力と異質な力を感じる。

 なんだか心細くなる、威圧するような光だ。


 終わった?


 横たわる銀の美女を見る。

 まだ動かない。

 今にも動き出しそうな気がして目が離せず凝視していると、微かに指が動いたのが見えた。

 驚いて思わず肩が跳ねた。


 うおおおびっくりしたあ!


 ゆっくり目が開き始めた。

 緊張する。

 心臓が口から飛び出そうだ。

 ユリウスなのか、リトヴァなのか。


 リトヴァであれば、私はジ・エンドだ。

 あ、いや、死ねはしないか。


 っていうか、死ぬより辛い目に遭わされる気がする。

 絶対そうだ。

 そうに違いない。

 ユリウスがされたような……それ以上?


 戻って来てユリウス様あああああ!!!!


 私は祈った。

 素敵ににっこり微笑むユリウス、もといリトヴァを想像しながら。

 だが、希望は打ち砕かれた。


「どこの虫けらか知らないが、虫けらにユリウスはやれんぞ」


 射殺されそうな程鋭い氷の目がこちらを見ていた。


 はい、『私』終了のお知らせ入りました。


 ……漏らしそうなのですが。

 ユリウスの身体でそれだけはやってはいけない!

 銀の美女が身体を起こし、ゆっくりとこちらに歩いてくる。


「我のものを勝手に汚されては困る。非常に、この上なく不愉快だ。ああ……本当に胸糞悪い」


 悪人顔でニヤリと笑っている印象があったが、今はニヤリともしていない。

 怖い。

 怖すぎる。

 足は地面に縫われたかのように動くことも出来ず棒立ちになっている。


 一歩一歩と近づいてきて距離が詰まる。

 近づくごとに威圧されて息が苦しい。


「それは我のものだ」


 とうとう距離がなくなった。

 私は棒のままだ。

 手が伸ばされ、首を捕まれる。

 そしてそのまま、魔方陣の中央に放り投げられた。

 起き上がろうとしたが、すぐさまリトヴァが馬乗りなって首を絞めてきた。


「返して貰おう」


 本気で首が絞められている。

 苦しい。

 息が出来ない。

 視界が白くなり、耳鳴りで脳が埋まっていく。


 あ、駄目だ、死ぬ。

 そう思ったが、この身体は死ねないことを思い出す。

 いつまでこのまま?

 意識は飛びそうだ。

 身体が一気に熱くなる。

 逆鱗を起こしてしまいそうなのか?

 この状態が続くなら、いっそ逆鱗を起こした方がいい。


 だが、少しして首を絞めていた手が緩んだ。


「ぐはっ、ごふっ」


 息が出来るようになったが咽て苦しい。

 咳き込む私に構わず、上から声がふってくる。


「あいつがやっていた方法は分かった。それを使って、我がこの身体を貰おう。お前は消えろ」


 消える?

 私が?

 嫌だ。

 絶対に嫌だ。

 ユリウスの身体でもいい、死にたくない。


「逆鱗をしようとしても無駄だぞ? 起こすより前に我がお前に取って代わるからな」


 リトヴァはニヤリと笑った。

 ああ、ユリウスが見慣れた顔だ。

 この顔を見ながらユリウスは何度も絶望を味わったのだ。

 そして私も……。


 悲しい、寂しい。

 そんな感情に囚われながら私は諦めた。

 なすがまま、ぼうっとリトヴァを見上げていた。


「失せろ、虫けら」


 リトヴァの口が動き、魔方陣が光りだした。


 さよなら、前の世界でお世話になった皆。

 それにこっちの世界で出会った人達。

 もうちょっと異世界を満喫したかったなあ。

 目を閉じ、大人しく最後の時を待った。




「これは…………まさか」


 リトヴァが焦ったように呟いた。

 それにつられて私は目を開け、リトヴァを見上げた。

 リトヴァは立ち上がり、魔方陣を見回している。

 すると魔方陣が再び、黒から白に変わり始めた。


「小細工を……あやつ!」


 魔方陣の上に呪文のような文字が浮かび上がった。

 文字は光を放ちながら帯になり、リトヴァの身体の周りをくるくると回転し始めた。

 私はその様子を呆然と見守るしかない。

 リトヴァはぶつぶつと呟き、何かしようとしているようだが上手くいかないのか苛々している。


 光は強さを増し、あまりの眩しさに直視出来なくなってきた。

 手の隙間から様子を伺うが見えない。

 完全に辺りが真っ白になり、一瞬空気が振動したあと光は収まった。

 光で眩んでいた目を慣らし、辺りを見る。

 魔方陣が消えていた。

 何もなかった。

 ただの洞窟に戻っていた。


 少し離れたところに人が倒れている。

 リトヴァだ。

 気を失っているようだ。


 近づくかどうか迷う。

 死んでいるということはないのだから、今のうちに逃げた方がいいかもしれない。

 でも、ユリウスがどうなったか分からない。

 リトヴァの意識があったということは消されているのかもしれないが……。


 迷っていると背後で気配を感じ、驚きで飛び跳ねながら振り向いた。

 そこには、光っている球がふよふよ浮かんでいた。

 大きさは野球のボールくらいだ。


「何これ」


 良く見ると、さっきリトヴァの周りを回っていた帯がぐるぐる巻きになって出来た球だった。


「リトヴァの魂だよ」


 急に声が聞こえ、驚きでまた飛び跳ねた。

 私の心臓は鶏肉で出来ているんだから、あまり刺激しないで欲しいんですけど!


 どきどきしながら振り向くと、そこには銀の美女がニヤリと笑いながら立っていた。

 一瞬どきりとして絶望しかけたが、ニヤリとした笑顔に毒がない。

 さっきとは別人のようだ。

 え……別人?

 まさか……。


「ユリウス、なの?」

「ああ」


 穏やかに美女が微笑んだ。

 それを見て私は涙が込み上げた。

 というか、完全に泣いた。


「ユリ、ユリウスー!!!」


 全力で駆け出し、飛びつく。


「おわっ、落ちついてくれ。君の方が背丈があるんだから。まあ、俺の身体なのだが」

「だってえええ! ユリウス消されちゃったのかと……! 鬼嫁本気で怖いし!」

「鬼嫁って……。頼むから、俺の姿で泣かないでくれ、抱きつかないでくれ」

「無理いいいい!」


 こんな姿の自分を見たくない気持ちは分かるが今は無理だ。

 ごめん、これからは頑張るから、今は許して!


 それから私は気が済むまでユリウスを、といっても身体はリトヴァ、を抱きしめながら涙を流した。




 ※※※




「で、この球がリトヴァってどういうこと? っていうか何があったの?」

「リトヴァの意識化で勝てればそれで良かったのだが、保険をかけておいたんだ。リトヴァの魂が俺の身体に移ろうとすれば、魂を拘束して隔離するようにね」

「そんなこと出来るんだ、って実際に今これだもんねえ。でもよくリトヴァがユリウスの身体に入ろうとするなんて分かったねえ」

「あいつは基本、俺がもっとも苦痛になることをしようとする。あいつが俺の身体に入って、俺はあいつの身体になるなんて死んだ方がましだからな」

「なるほど……。でもなんか、それって悲しいねえ。リトヴァは自分がユリウスに嫌われていることが分かっていた、ってことだもんねえ。せつないわあ」

「悲しい? せつない? 君の言いたいことが分からない」


 ユリウスは全く理解出来ないようできょとんとしている。

 え、きょとん美女可愛いんですけど!

 ……じゃなかった。


 私から見たリトヴァはとてもユリウスに固執していたように見えた。

 私にぶつけた感情は『嫉妬』だったように思える。


「リトヴァなりにユリウスを愛していたんじゃないかな。……歪んでいるけど」

「…………」


 ユリウスは無言で苦虫を噛み潰したような表情をしていた。

 複雑そうだ。


「で、どうするの? この球」

「壊すに決まっているだろう」

「え!? 壊すって、殺しちゃうってこと!?」

「そうだ。それが俺の悲願だった」


 確かにそうだった。

 だが、何故か気が進まない。


「封印とかにしてあげたら?」

「万が一解けたらどうする? 俺達はこれから悠久の時を生きていかなければならない。必ず困る時がくると思うぞ?」

「さあ、すぱっとやっちゃってください」

「……」


 私は自分が一番可愛いのです。

 ああ、そんな目で見ないで。

 美女の冷たい眼差し、ぞくっとするね!


「でもまあ、一言掛けてあげたら? 聞こえているかどうか知らないけど」

「恐らく聞こえてはいるだろうが……特に言うことはない」

「冷たい」

「そう言われても……。そうだな……ふむ、やっぱりないな」

「ちょ、『お前の愛は俺には重すぎた』とか『俺達はこうなる運命だったんだ』とか気持ち悪いこと言ってよ!」

「本当に気持ち悪いな……」


 光の球は静かに浮かび上がったままだ。

 今、リトヴァは何を思っているのだろう。


「さあ、本当にさっさとやってしまおう」


 ユリウスはそう言うと、躊躇なく光の球を叩き切った。

 割れた球から黒い光が溢れ、夜空のように広がりながら消えていった。


 ――お前の勝ちだ


 微かに何か聞こえた気がした。


「何か聞こえた?」

「……さあな」


 ユリウスは目を伏せ、穏やかに微笑んでいた。


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