第六話 上演中
小芝居は続き『見え張りたいんです劇場』は順調だ。
次の目的地は商店通りにあるという雑貨屋だ。
そこには友達がいるらしい。
ヘルミが気合をいれて張り切りだした。
雑貨屋に向かっている間も何人か村人と遭遇した。
話しかけられることはなかったが、全員が俺を見ると口を開けて固まるという同じリアクションだった。
ヘルミによると「見たこともない美しさに絶句してるのよぉ」と、いうことだった。
そういえば、自分が始めて鏡で見たときも固まった。
兎に角ヘルミが言うには守備は上々らしい。
だが理解出来ないことが……変な現象も起きている。
俺達の後をつけて来る人が、雪だるま式に増えているのですが!
最初の中年女性二人組みもまだいるし、小さな子供から主婦らしき人、お年寄りまで殆どが女性の集団。
これ、何ツアーだよ!
「なあ、ヘルミ。あれ、どうすんだよ!」
「放っておけばいいわよお」
いや、凄く気になるから!
立ち止まり振り返ってみる。
すると、後ろのツアーの皆様も足を止めた。
そして、きゃいきゃい騒ぎながらこちらを見ている。
なんなのだ。
「あの……」
「「「!!!!」」」
全員の頭上にエクスクラメーションマークが飛び出したように見えた。
次の瞬間全員が口を閉じたため、場は鎮まりかえり……ってもう、なんなんだこれ。
「何か、用ですか?」
「「「……」」」
無視ですか!
何故だ、俺は知らないうちに沈黙の魔法でも使ったのだろうか。
「ユリウス、行くわよぉ」
「お、おう」
「「「!!!!!!!!」」」
ヘルミが立ち止まった俺に腕を絡めて引っ張り始めた。
それを目の当たりにして、再びツアー客達にエクスクラメーションマークが飛び出した。
心無しか先ほどより多く出ている気がする。
ツアー客達はその場に留まり、俺たちが離れるとドヨドヨと騒いでいる様子が見えた。
「ふっふふ~ん」
「ヘルミ、今のわざとか?」
「何のこと?」
さりげなく恋人関係をアピールの一環なのだろうか。
今のは『さりげなく』になるのか?
「あざといのは嫌なんじゃなかったのか?」
「ふふ、知らなぁい」
ヘルミ、結構良い根性をしている。
まあ、元彼とのことを聞こえる声でヒソヒソ話されたこともあったようだし、気持ちは分からなくはない。
これも一種の「ざまあ!」か。
そんなこんなをしながら足を進めているうちに、目的地の雑貨屋に到着した。
店舗名は特に無く『雑貨屋』でいいようだ。
こちらも小さな木造家屋で、民家と同様どことなく中華風。
入り口が両開きの引き戸になっているが開け放たれていて、中の様子が全て伺えた。
商品が陳列された棚の奥にあるカウンターでヘルミと同年代の女の子が二人、そしてさっきの兄弟の弟、レオ少年が和気藹々と話をしていた。
「そんでね! 頭がぴかー! って……、あ! 金ぴかー! あれだよあれ!」
ヘルミの後について店舗内に足を踏み入れると、レオ少年が振り返った。
俺の話をしていたようでこちらを指差して突進してきた。
「よう、また会ったな。少年」
「今あんたの話をしてたんだぁ! こっちきてよ! カティ姉! レイラ姉! これこれ!」
興奮した様子のレオに手を引かれ、二人の少女の前まで連れて行かれた。
二人も今までのリアクション通り口を開けて俺を見ていた。
「どうも、こんにちは」
ヘルミも気合を入れていたし、俺も頑張らねばなるまい。
今日一番の笑顔で挨拶をした。
「「…………っ!?」」
すると二人は硬直したまま、同時に耳まで真っ赤に染まった。
会心の一撃は決まったようだ。
「ほら! ぴかぴかだろぉ!」
「少年、ユリウスって名乗っただろ? 金ぴかじゃなくてユリウスって呼んでくれよ」
「そうだったな! 分かったぁ!」
ヘルミを見ると俺の後に隠れ、ニヤニヤと笑っていた。
おい、悪代官みたいな顔をしているぞ。
「おい、友達なんだろう? 紹介してくれよ」
「そうだったわぁ、ごめんね! カティ、レイラ、紹介するわ。この人はユリウスよ」
「どうも」
ヘルミが言っていた『さりげなく寄り添ったりして』を実行しつつ、軽く挨拶をした。
「「…………」」
二人は無言で俺達を見ていた。
そして、ここでも沈黙ですか。
やっぱりいつの間にか、沈黙させる魔法を習得していたのかもしれない。
「「ヘルミ! ちょっと来いぃぃぃ!」」
沈黙と硬直が解けた二人が急に動き出した。
雄たけびのような大声を出したかと思うと瞬時にヘルミを拘束し、店の奥へと引き摺り込んだ。
「…………え?」
素晴らしい手際で黙って見送ってしまったが……これは事件か?
どうすればいいか分からず立ち尽くしていると、奥から声が聞こえてきた。
「あんた! どういうことなのよぉ!」
「あんな綺麗な男の人見たこと無いわよぉ! どこで捕まえたのよぉ!」
「えっと、一ヶ月ほど前に怪我をして倒れているところを助けて……」
声は忍ばせているつもりのようだが……丸聞こえですけど。
ヘルミが自作のラブストーリーを披露しているようだ。
「傷は癒えたけど、彼が『私と一緒にいたい。離れたくない』って言ってくれて、一緒に住むことにしたの! それでね、村長様にご挨拶に行くことにしたの!」
「「きゃああああ素敵!」」
ほう……俺はそんなことを言ったのか。
なんか着色されていないか?
その後も「きゃー! きゃー!」と、乙女達の黄色い歓声は続いている。
ははっ、なんだか微笑ましいな。
楽しんでいるようだし、長くなりそうだが待つしかないか、と考えていると、下から声が聞こえた。
「なあ、ヘル姉のどこがいいの?」
ませた少年、レオだ。
「えぇっと、全部。かな」
……そうか。
こういう質問をされることがあるのか。
これからもあるだろうから、ある程度答えを準備しておいた方がいいかもしれない。
「ねえ。ヘル姉とはどこまでいったの?」
「レオが大人になったら教えてあげるよ」
意味を分かって言っているのだろうか。
どのような環境で育っているのか、少し心配になってきた。
……というか、俺とレオ少年のやりとりが気になるのか、三人は戻って来たようだが姿を隠し、息を潜めてこちらの様子を伺っている。
バレバレだけど。
声を殺して「きゃーきゃー」言ってるのが聞こえてきますよ、お嬢さん方。
「ヘル姉より綺麗な人いっぱいいるのに、なんでヘル姉なの?」
「さあな。好きになったんだからしょうがないだろ。それにヘルミは俺にとっては誰よりも可愛いよ」
『きゃああ!』『ヘルミ! ずるい!』『もうっユリウスったら!』
だから丸聞こえですって。
もう隠れているつもりないだろ。
レオ少年も呆れた表情で声の方に顔を向けている。
それでも質問は続く。
「可愛いって、どこが?」
「すぐ照れるところとか……寝顔とか?」
『『きゃああああああ!!!』』
「もうやめてえええユリウスうううぅ!!!」
居た堪れなくなったのか、真っ赤に茹で上がったヘルミが飛び出してきた。
「ほら、可愛いだろ?」
「そうかな? おれには分からないよぉ」
「いいんだよ、俺だけが分かってれば」
「ユリウスってばあぁ!」
「ははは」
顔を真っ赤にさせながらポカポカと胸を叩いてくるヘルミをぎゅっと抱きしめてやれば、耳から血が噴出しそうなほど赤に染まった茹蛸ヘルミが出来上がり、その後ろにも見ているだけなのに茹で上がった少女二人が出来上がった。
ああ、俺っていい仕事するわあ。
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