第21話「逆転を呼ぶ羽撃き」
ヨシュアの
世界の
リョウカは、愛用の魔剣を手に静かな怒りを告げていた。
「ヨシ君は、そんなことで喜ばないっ! 誰かの不幸、世界の混乱を喜ぶ子じゃない!」
「リョウカ、お前……」
「ルシフェル、あなたを倒して魔法がなくなるなら、それでもいい。人間は魔法を失っても、自分の力で生きていくもの。生き方を探して求め、なければ自ら創り出す! 魔法のない世界から来た、わたしだからわかるもん!」
リョウカの意外な言葉に、巨大なサタンの中でルシフェルが表情を失った。
そして、リョウカの力強い声に呼応する仲間達。
「そっ、そうよ! 魔法がなくなったなら、それを失った人達をあたしが
「……お兄ちゃんが今、魔力を持たず、魔力に頼らずに戦ってる。お兄ちゃんにできて、妹のアタシにできない
「魔法文明が崩壊し、世界が混乱に
シレーヌが、ディアナが、そしてシオンが叫んだ。
その一言一言、一字一句がルシフェルを
異邦人のセーレやレギンレイヴでさえ、大きく
まだ誰も、心を折られていない。
そして
「なっ、
「……ああ」
「わからない! 理解できないよ! 君は魔力を持たず生まれ、そのことで
「もういい、いいんだ……黙れよ、ルシフェル」
静かにセーレの黒馬から降りると、ヨシュアはその場で真っ直ぐルシフェルを見据える。
少し距離があったが、冷たく凍る空気は確かに言葉を伝えた。
「ルシフェル、俺を笑った奴が、こんどは俺と同じ魔力を持たぬ人間になる。世界は魔法を失う。それで俺が、なにを喜ぶ? ざまぁみろと言ったところで、それを誇れるかよ」
「少なくとも、主の生み出した不平等の一つを駆逐できる! 君を救える!」
「等しく魔力を持たぬ人間の社会は、また新たな力で文明を再建させるさ。その時、なにかが人間を上下に
そういう意味では、神は平等だ。
教会が主と
神の意思は常に、人に
それと同時に、人は人だけのエゴと欲を持つ。
向上心や探究心、好奇心が世界を広げて豊かにするのだ。
「ルシフェル、不平等で不条理なのは神様じゃない……俺達人間一人一人さ。でも、俺達は神様じゃないから、それがわかった上で他者と接してゆける」
「だが、人の社会は生まれながらの敗者を生むぞ! 君がそうだ、ヨシュア!」
「人を勝手に負け犬にすんなって……安心しろよ、ルシフェル。神の愛は証明できないが、お前がそうやってジタバタしなくてもいい、するだけ無駄だと教えてやることはできる!」
愛馬を消して地に降り立ったセーレの、伸べられた手を握る。
再び、異界より強き者を召喚しなければいけない。
だが、呼び出せてもセーレと同じ
それでも、召喚中の霊格と同等の存在を、体力と精神力を
「決着をつけるっ! ルシフェル!」
「っ、どうして……」
「俺達が人間で、神の愛より欲しいもんがあるからだ! みんなが全員、沢山!」
再びサタンの中へとルシフェルが消える。
そして、恐るべき巨大な魔王が震え出した。背の
それは、空中に描かれた巨大な魔法陣。
もともと備わった能力で、呼吸をするように炎を操り、水を氷に変える神々……その中でも最強のルシフェルが、あたかも人間が魔法を使うように魔法陣を広げた。
なにか強力な攻撃をしかけてくる、それは明らかだ。
だが、セーレの手を引きヨシュアは走り出す。
勝利を信じて、明日を求めて
すぐにシオンが、気迫を叫んで横を追い越していった。
「みんな、あと一息だっ! ならば、命を
彼女が振り抜く巨大な剣が、鋭い刃でサタンの片足にめり込む。だが、そこで止まって、それ以上は切り込めない。勇者リョウカと共に戦ってきたシオンの
それでも、彼女は動かなくなった大剣を軸に一回転、そのままさらに上へと飛ぶ。
手には、あの日ブレイブマートで買ったナイフが握られていた。
「もう一発っ!」
やはり、致命傷にはならない。
それがわかるのか、サタンに
だが、それを見上げて落下するシオンもまた、不敵な笑みを浮かべる。
「……あとは任せた、リョウカ! オレの勇者、オレと共にある者……オレの先を
駆け寄るシレーヌとレギンレイヴに抱きとめられて、そのままシオンは倒れ込んだ。
だが、彼女の攻撃が無駄ではなかったと、
迷わず
リョウカは、今や光の刃となって膨れ上がる剣を手に、飛翔……そして、まずはシオンの大剣を足場に身を屈めた。そう、シオンの巨大過ぎる剣は、女の子一人が瞬発力を凝縮するには、丁度いい足場だった。
そこから
高い高い天井へと舞い上がった彼女は、大上段に魔剣を振り上げた。
「みんなの想いを、この一撃に! わたしのこれまでを、今こそ力にっ!」
リョウカを見上げるサタンの顔が、恐怖に引きつっていた。
サタン自身の
そして、
その時にはもう、ヨシュアは連れて走るセーレの力を自分に呼び込んでいた。
「セーレッ! お前と同じか、それより力関係の弱そうな魔神を教えろ! お前と一緒にもう一人、七十二柱の魔神が必要だ!」
「おっけぇ、ヨシ君! えっとぉ、まずはバエルには飲み会の貸しがあるしぃ、バルバトスは今の奥さんに
欲した名を聞いて、すぐに理解する。
その間もずっと、ヨシュアと共に走るセーレは七十二柱の名前を並べ続けた。
序列とは別に、魔神は大半がセーレになにかしらの弱みを握られ、借りを作ってるようだ。
よろけて左右にめくれ上がりながらも、サタンは最後の力を解放しようとする。
着地したリョウカは、すぐに駆け寄りヨシュアのもう片方の手を握った。
「ヨシ君っ、今だよ!」
「おうっ! 魔神セーレが
セーレの霊格が、同等の力を
二人の手を握るヨシュアの前に、灼熱の炎が
七十二柱の魔神、フェニックス……その姿は、
そのままヨシュアは、フェニックスそのものとなってサタンに飛び込んだ。
「終わりだっ、サタン! 終わらせろよ、こんなこと……ルシフェルッ!」
「にっ、人間が、こんな……ヨシュア! どうして! 君ならわかる、わかってくれると、僕は!」
「
だが、サタンからも魔法陣を介して巨大な
白く燃える小さな太陽へと、そのままヨシュアは突っ込んだ。
――かに思えたが、その時セーレが手を離す。
「少しは自分で働かないとねぇ……ルシフェル、君も一緒にくればよかったんだよん? ソロモン王や私と一緒にさ、次の世界に。そういう訳で、ちょいやさっ!」
セーレは、手にした
空中で大爆発するその風圧を背に受け、
そして、最後にリョウカが強く手を握ってきた。
「ヨシ君っ、届けて……ルシフェルに! あとは、男の子同士で、拳でっ、語って! 頑張れっ、男の子っ!」
リョウカはそのまま、ヨシュアをブン投げた。
失速してゆく不死鳥の中から、流星のようにヨシュアは飛び出す。
その先には、先程のリョウカの一刀両断で
「おおおっ、ルシフェルッ!
繰り出した
だが、その時……その瞬間、確かにヨシュアはルシフェルに触れた。
初めて人を殴ろうと思った拳が、届かないまでも相手を動かしたのだ。
「そんな拳で、拳一つで僕が止まるものか! ……な、なんだ? これは」
「忘れたか、ルシフェル……俺は、俺の召喚術は、召喚した霊格に触れることで、同格の存在を召喚できる。忘れるなよ、おい……お前を召喚したのはっ、この、俺だっ!」
かつて天界最強の天使長として君臨し、神に背を向け堕天使となった。そうしてまで戦い、神の愛を
ヨシュアとルシフェルを中心に、光が広がった。
音を立ててサタンが崩れ始める、その中から……神話にさえ忘却されし
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