これからも

勝利だギューちゃん

第1話

「お久しぶりです。お兄さん」

「久しぶり。」


俺はアパートで、1人暮らしをしていた。

大学生のころなので、もう3年も前になる・・・

そこの大家さんには、当時中学生の娘さんがいた。


「家賃を安くするかわりに、娘の家庭教師をしてほしい」

そう頼まれた。


俺は、迷った。

いくらなんでも、年頃の女の子を大の男の部屋に入れるのはまずい・・・

なので、こちらかお邪魔させてほしいと願った・・・


だが、それは断られた・・・

「あなたは、信用できそうなので・・・」

仕方なく折れた・・・


そして、週2回に、その子の家庭教師をすることになった。

但し、国語と社会だけだったが・・・


最初は、双方緊張していた・・・

でも、打ち解けると気があい、仲良くなった。

本当の、兄妹のような関係となった・・・


その子は、驚いていた。

「お兄さんの部屋、奇麗に整理整頓されていますね」

「うん」

「男の人の部屋だから、もっと散らかっているかと・・・」

「あまり、物がないからね・・・」


その子は、理系は得意だったが、文系は苦手だった。

そこで、俺に家庭教師を頼んだようだ・・・


時々、その子が手料理を作ってくれるようになった・・・

中学生なので、あまり味は期待していなかったが、

心が嬉しかった・・・


当たり前だが、何事もなく受験シーズンを迎えた。

その子は、俺に言った・・・

「もし合格したら、どこかに連れてってと・・・」


「それくらいなら」と、OKした。


そして、その子は無事に合格した。

大家さん夫妻も、喜んでくれた。

俺に大変、感謝してくれた。

「彼女の努力です」

俺は、謙遜した・・・


そして、約束通り、その子を遊びに連れて行くことにした。

朝に映画を見て、昼にボウリングをして、夕方にカラオケに行った・・・

その子は、とても楽しんでくれた・・・

俺も、嬉しかった・・・


そして、その子の高校入学式の前日、

俺は引っ越す事になった。


大家さん一家始め、アパートの住民全員で見送ってくれた。

まだまだ捨てもんじゃないなと、俺は嬉しかった。


そして、その女の子からも、餞別をもらった。

ひとつは手作りのお弁当・・・

もうひとつは手紙・・・


手紙はこれまでの、俺への謝礼の言葉や思い出が書かれていた。


そして、お弁当には一枚のメモが入っていた・・・

そこには、こう書かれていた・・・


「お兄さん、本当に何もしませんでしたね・・・」


もうその子とは会うことはないと思っていた。


だがそれから3年経った今、引っ越し先ベルが鳴った。

ドアを開けると、そこには3年前のあの子がいた・・・


「お久しぶりです。お兄さん」

「久しぶり。大きくなったね」

3年前よりも、女ぽくなっていた・・・


「私、今年大学受験なんです」

「そうか、もうそうなるか・・・」

「また、私に勉強教えていただけますか?」

「・・・それは、構わないけど・・・」

俺は迷った挙句答えた・・・


「ありがとうございます、よろしくお願いします」

「よろしく」

しばしの時が流れた・・・


「そういえば、まだお互い下の名前を知りませんでしたね」

「・・・そういえば、そうだね・・・」

俺は本当は、大家さんに訊いて知っていたが、話を合わせた・・・


「私の名前は・・・」

「僕は・・・・」

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これからも 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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