第7話 VS宗教勧誘
「ああ、それでは一人でお留守番なんですね。偉いですねえ」
「もうそんな子供ではありませんし、そんなことを言われる筋合いもありません」
「それはすみません。お話ししたいことがあるので、少しお時間をいただけますか?」
「嫌です。お帰りください」
子ども扱いされたことが相当気にくわなかったのでしょう。アーロン様は冷たい態度で背広の男性に接します。当たり前ですね。いきなり家にやってきてこんなことを言われれば、いくら子供でも警戒するに決まっています。
「ホームちゃん、動画切っちゃって」
「はい、アーロン様」
彼女の言うとおりに、インターホンを切ります。私も同じ気持ちだったので、ブツ切りにしてやりました。
それから私たちはいつも通り、おしゃべりをしたり、魔導書を読んだり、優雅にお茶をしたりして過ごしていたのですが――十時間後に、私はアーロン様に伝えなければならないことができてしまっていました。
それをお伝えすると、アーロン様は不機嫌な顔でインターホンのモニターをつけました。
「なんで帰らないんですか」
「魔王様のすばらしさを伝えるためですよ」
そう、あれから十時間も経っているというのに、彼はまだ帰っていなかったのです。
「帰れないのなら外への地図を渡しますよ」
「ああ、それはありがたい。ぜひいただきたいです」
暗に帰れとアーロン様が伝えてみるも、背広の男には響いてくれません。門の近くから出した『私』の手で地図を渡しましたが、当然というかなんというか、男性は帰ってはくれませんでした。
「なんでそこまで布教にこだわるんですか。ここじゃなくてもいいじゃないですか」
当然の疑問をアーロン様は口にしました。すると男性は急に興奮した様子で熱弁を始めました。
「魔王様はすばらしい方なのです。すべてを見通し、すべてを従え、すべてを支配しつくすだけの器がある方なのです!」
その声は静まり返った家の前に響き渡りました。門の外ではなくいっそ敷地内に入ってくれていれば、簡単に追い返すことができるのですが、人生はままなりません。私は『家』ですけど。
「……魔王、か」
ぼそりとアーロン様がつぶやきました。
彼女が何を考えているのかは前髪に隠れた表情からは、読み取ることができません。
そんなアーロン様の声を聞きとがめたのでしょう。男性は興奮した様子で身を乗り出してきました。
「おお、ご興味を持っていただけましたか? それでは一度中に入ってお話をさしあげてもよろしいでしょうか」
「いえ、それは遠慮します」
「そんな遠慮しないでくださいよ。こちらは百パーセント善意での行為なのですから」
「無償の善意なら間に合ってます」
「またまたご冗談を」
クソッ、こいつめげない!
ああ失礼。思わず内心で罵倒してしまいました。
アーロン様は少し考えて、それから男性に問いかけました。
「魔王を崇拝するって言っても、魔王はもう死んでいるんですよ? しかも十年も前に」
「それがですね、魔王を復活させる方法があるんですよ」
まるで秘密を口にしようとしているかのように指を一本立てながら、男性はインターホンにささやいてきました。
「簡単なことです。魔王を殺した憎き勇者の死体をささげれば、魔王様は復活するのです!」
男の声でインターホンがびりびりと音割れを起こします。アーロン様は驚いて固まっているようでした。私はその心中を察し、そして自分自身も気になっていたことを尋ねました。
「あの」
「なんでしょう」
「……ここが勇者の家だって分かって言ってます?」
恐る恐る私が問うと、男性はにやりと嫌な笑みを顔に張り付けました。
「ええ、分かって言っていますとも。だからこそ、あなたにこれをお渡しに来たのです」
男が差し出したのは薄い冊子でした。私は門から出した手でそれを受け取ります。その表紙は妙に明るい色をしていました。
「私の名前はグルドです。気が向いたらいつでもご連絡くださいね、お嬢様」
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