ショタの中身なんてこんなもの

アイネット

あざとさ純度100%


【5月10日 木曜日 午後3時15分】

ラストホームルームが終わり、生徒が各々教室を出る。

そんな中俺はぼんやり回想にふけっていた。


中2くらいからだろうか。

俺が自分の『可愛さ』を自覚、受け入れ始めたのは。

運動部にも入らず外出も少ない俺の肌は白く、親と似ない童顔。

毎日のように夜更かしをしていたからか背も女子の平均すら越していない。


男であろうと『可愛い』ことに違いはない。


ショタ好きな女子からの人気はあり、男子からも親しまれやすい。


俺はこの見た目を、最大限に利用した。


人の前では一人称を僕とし、口調もできる限り柔らかく。

高校生になると髪型の校則も緩くなり、男子であっても不自然ではない程度にまで伸ばした。

そうすることで俺は急速に『可愛さ』を磨いて行った。


「なぁ海人!」


バンっと机をつく音に、俺の回想は中断された。


「ど、どうしたの。直也君」


柏木直也。1年の頃同じクラスで、今年度も同じクラスになった。

見た目は普通にイケメンなのだが、女子に免疫がないため彼女が出来ない。

その割には恋愛に憧れがあるらしく、よく相談に乗っていた。


「お前この部活知ってるか?」


直也は俺に携帯の画面に写真を表示して呈してきた。その写真に、眉をひそめた。


「恋愛相談部…?」


恋愛相談部

青春、謳歌しませんか?

あなたの恋愛相談、承ります!


そうデカデカと書かれた張り紙は、特にイラストもなく、文字だけのどこか無愛想なものだった。


「ここ行こうかと思ってるんだよ」


そういう直也の表情は妙に輝いている。


「はぁ。入部するってこと?」


「ちげーよ!」


勢いよくやたらでかい声で否定してきた。


「えぇ。そんな怪しい宗教みたいなとこやめておきなよ~」


というか1年の頃はこんな部活はなかった。2年になると顧問の先生がつくことと、校長の許可という条件をこなせば誰でも部活は創れる。俺らと同学年が作ったと考えるのが妥当だ。


「そうだよ。悪いか!」


俺なりに遠回しに行かないでおけ、と言ったつもりだったのだが意思は届かなかったようだ。


「はいはい。いってらっしゃい」


そんな訳の分からないやつに構ってるならさっさとあしらって帰った方がマシだ。


「何言ってんだよ。お前も行くぞ」


「あー。まぁそうなるよね」


この詳細のわからない部活に一人で行くというのは勇気がいる。

仕方ないか。割り切ってその部室、展開33に着いていくことにした。




「ここだね……」


展開33。恋愛相談部の部室は無機質な中の見えないプラスチック製のドアだった。

ほかのクラスのガラガラと横にスライドさせるタイプのものではなく、引いて開けるタイプのものだ。


「ほら、行ってきなよ」


ドアの前から横にずれ、直也に中に入るように促した。


「……」


しかし直也は黙り込んで顔をあげない。


「な、直也君?」


俺はこの時思い出した。こいつの性格を。


「はぁ。こんな所で人見知り発揮してるの…?」


「う、うるせぇな!仕方ねーだろ」


「何赤面してるの。気持ち悪いなぁ」


正直男の赤面とか俺みたいなショタでもない限り需要がない気がする。


「あー腹立つなお前!」


「そんなやつを連れてきたのは直也くんだよ」


直也と言い争っていたその時だった。


俺の真横のドアがガチャっと音を立ててすっと開いた。


「恋愛相談部に何か用ですか〜?」


ドアから顔を出したのは、セミロングの俺より少し背が低めの女子だった。

顔は整っていて目はぱっちりしてる。

一般に言う『可愛い顔』だった。

そして、その顔には見覚えがあった。


「あ、亜美ちゃん」


彼女は伊藤亜美。俺の後ろの席だ。

そして、彼女にはわかりやすい特徴がある。


「あ、海人君だ。恋愛相談?なんか意外〜」


そう言うと、俺の手を引いて部屋に連れ込もうとする。

手を握られる感覚に、少なからず動揺する。


「はぁ。ほんと強引だね」


そう。強引なのだ。俺がものをいう前に適当に進めようとする。


「強引じゃないもん」


そう言ってちょっとムスッとしつつ俺の手を離した。


「相談があるのは僕じゃなくてこいつ」


俺らのやり取りを1歩引いてみていた直也を指さす。

伊藤もその方向を見て、ん?と直也を見つめた。


「か、柏木直也です。よろしくお願いします!」


分かりやすく緊張している。


「知ってるよ。同じクラスじゃん」


彼女は不思議なものを見るかのように、コクっと首をかしげながら言った。


「あ、そ、そうだよね。ごめん」


そう言うと、また俯いてしまった。


「はぁ。まぁこんなやつなんだけど、彼女が欲しいんだって」


仕方なく代弁してやったが、正直誰が好きだから付き合いたい、とかでもないのにこんなアバウトな要望言われたって困るだろう。


よって、俺がやるべき事はここで断られて速やかに直也を連れて帰ることだ。


「へー。まぁこっち来なよ」


伊藤はドアを開けて中の4つ机をくっつけただけの、先生と面談する時みたいな状態の教室に招かれた。


俺らは廊下側の2つの席に座らされた。

伊藤の隣は空いているが、誰も座る人がいない。


思惑通りには行かず、中に入るように促された。


このまま相談して、直也の問題が解決できるのならばいいが、しかし相談相手が女性である以上、その相談すらまともに出来ないだろう。


ならば、その提案を断るのが良策だ。


「まぁ、誰が好きとかないのにそういうこと言われてもあれだよね。ほら、帰ろ。直也君」


「か、海人。俺の邪魔をする気か?」


席に座った彼は無駄に真剣なようだ。


「えぇ。絶対無駄だってー……」


正直今すぐ帰りたい。

なぜ恋愛相談部とか言うところに俺が男と二人で来ないといけないんだ。という謎の感情が俺の中に生まれていた。


「そーれーでーは、相談内容を詳しくお願いします!」


伊藤はやたら嬉嬉として、俺らの会話など気にせず『相談』とやらを始めさせてしまった。

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