火を操る事
室内には複数の大きな机と椅子がある。
その椅子のひとつに黒いTシャツに黒のズボン、薄手の灰色パーカーと言ったラフな格好をした少年が座っている。
光源は机に置かれた懐中電灯しかないために薄暗く静かな室内には水の流れる音と食器同士がぶつかる音が時たま響き渡る。
「器用だよね。」
少年は椅子に座ったまま部屋に備わっている調理スペースで作業をしているドローンに話しかける。
電子レンジくらいのサイズの黒い箱に4つプロペラのようなパーツが取り付けられたデザインのドローン。
今は箱の右と左の部分からロボットアームが生え食器についた洗剤を洗い流している。
「この程度なら出来て当然だと思いますが。」
食器を一通り洗い終えるとドローンは少年の近くの机に移動する。
「そうかな。」
「そうだと思いますが。」
「でも俺は料理作れないよ。」
「それは貴方様の調理技術が平均を下回っているだけだと思います。」
「その言い方は傷つくな。俺だって焼くくらいなら出来るよ。」
ドローンの言葉に少しムッとする少年。
「そうですね。焼くことは出来ると思います。ですが上手に焼く方法は知りませんよね?」
ドローンは得意気にそう返した。
「……確かに知らない……かも。」
少年が負けたと言わんばかりに両手を挙げた。
「焼くことは誰にでもできます。ですが何も考えず焼く事を料理と呼ぶのなら不慮の事故から起きる火事も料理と呼べてしまうのではないでしょうか?」
「それはおかしくない?」
「そうですか?火の規模が大きいだけで結果的には食材も燃えますよ?」
ドローンが悪戯っぽくそう言った。
「うーん、ん?それつまり俺の調理技術が酷いって遠回しに言ってる?」
「おや、気付かれましたか。」
ドローンがカタカタと小刻みに揺れる。
どうやら笑っているようだ。
「そんなに酷いかな…?」
「高確率で炭にしてしまいますからね。」
「そ、そうだっけ?」
「そうですよ。」
余りにハッキリと肯定されてしまい少年はガックリと肩を落とす。
ドローンはそんな少年を見ると再びカタカタと小刻みに揺れた。
「もしよろしかったらお教えしましょうか?せめて上手な焼き方だけでも。」
「うーん……。」
ドローンの提案に少年はしばし考え込む。
そして。
「いいや。」
と返答をした。
「そうですか。……理由を聞いてもいいですか?」
「だって俺が作るのより作って貰ったご飯の方が美味しいからさ。」
「はぁー……そうですか。」
少年の満面の笑みでの返答を見てドローンは演技っぽく溜息をつく真似をする。
彼女はドローンであるため表情がない。
付き合いが長いから少しづつ彼女の感情表現がわかっては来ている。
しかしそれでもまだ真意がわからない時もある。
でも今の溜息の後の「そうですか。」は満更でもないように少年には聞こえた。
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