ヒルトロール来襲
先に行った馬車を追いかけるように俺達も先に進む。上り坂は終わって荷馬も少しは進めるようになったようだ。あの調子で騒いでいたら望むと望まざるとに関わらず周囲の注意を引く気がするが大丈夫なのかな。ヒルトロールの情報知ってるのかねえ。
しばらく進むと、眺望が開けた。
馬車が進む先の丘からヒルトロールが現れ、馬車は間一髪でヒルトロールの目の前をすり抜けた。3騎ほどが残って、ヒルトロールの足止めを始める。2倍以上の身長がある相手に果敢に立ち向かっているが、全く歯が立っていない。騎乗の一人が巨大な棍棒の一撃を食らって吹っ飛ぶ。
そして、必死に立ち向かい時間を稼いだ馬車の先にはもう1体のヒルトロール。分業しての待ち伏せとは、脳筋巨人としてはやるじゃないか。手前に視線を戻すと足止めしていたもう一人が馬ごと叩き潰される。どうなるか高みの見物としゃれこもうとしていると、ノアゼット様から鋭い声がかかる。
「シューニャ。あの人たちを助けてあげないのですか?」
「マダム。普段から余計なことに首を突っ込みすぎと言われてませんでしたっけ?」
「目の前で人が死にかけているのです。助けるのは当然です」
「では。仰せのままに。ディヴィさん後は頼みます」
俺は空をちょいと飛んで、手前側のヒルトロールの前に降り立った。ちょうど3人目を追い詰めて、棍棒を振り下ろしたヒルトロールのケツにハルバードを突きさしてやる。ぐわおおお。相手は咆哮をあげてよだれをまき散らしながら振り返り、棍棒を俺めがけて振り下ろす。俺はハルバードを両手で掲げて受け止めた。ガシィッ。おう。結構な衝撃じゃねえか。
攻撃を受け止められて目を見開き怒り狂うヒルトロール。そのままハルバードを滑らせて、棍棒を横に払うと、刃先をヒルトロールに叩きつける。手首を切られたヒルトロールは派手に血をまき散らしはじめた。棍棒がごとりと地面に落ちる。勝負あり。あとは数撃叩き込むだけでヒルトロールAは動かなくなった。
さて、ヒルトロールBはどうしたかな? 見ると、ちょうど、立ち往生した馬車の屋根を棍棒で吹き飛ばしたところだった。ついでに御者も吹き飛び、10メートル近く空を飛んで地面と接吻している。半ば壊れた馬車から例の横柄な奴が飛び出してきて、走って逃げ始めた。何やら叫んでいる。あーあ、メンドクセエなあ、あいつまだ生きてやがった。
仕方がないので俺はそちらに駆け寄る。ヒルトロールは馬車から逃げ出した者に気づくとドシンドシンと大股で近づき、棍棒を横殴りに振るう。ああ、残念。俺の救いの手は間に合わなかったか。と思ったら、大柄な戦士が飛び出してきて戦斧を棍棒に叩きつける。ガッ。木片がはじけ飛び、斧を持った戦士は弾き飛ばされる。ズザザアー。
すげえな。体格が2倍の相手に吹き飛ばされつつも攻撃を止めやがったよ。
戦士はすぐに立ち上がると破れたマントを翻しながら、ヒルトロールに向かっていく。そうやって注意を引き付けている間に、もう一人の生き残りが槍を構えて馬上突撃した。ズブリ。槍は見事にヒルトロールの左腿を貫通する。
ヒルトロールは左手で騎士を弾き飛ばすと、斧持ちの戦士に棍棒を叩きつける。棍棒を迎える斧の動きが今回はわずかに遅れて、棍棒は斧ごと戦士の体を捕らえた。戦士は空中を飛んで地面に落ちごろごろと転がった。その手に斧はもうない。
何とか立ち上がった戦士のところへヒルトロールがびっこを引きながら近づく、ニタアと笑ったヒルトロールは垂直に棍棒を振り下ろす。しかし、腕を十字にして頭上にかざした戦士の上に棍棒は落ちてこなかった。俺が真正面からハルバードで受け止めていたからだ。
柄を地面につけ、4メートルほどに伸ばしたハルバードの先端に棍棒は刺さっていた。ひゅー。柄が数センチ地面にめり込んでいる。ハルバードに短くなるように念じると先端は棍棒に突き刺さっているので、柄を持っている俺が吸い寄せられていく。
最後にハルバードを小さくして回収すると、棍棒を蹴ってジャンプし、ヒルトロールの目と目の間に膝蹴りを叩きこんだ。そのまま、頭を掴んで倒立前転するようにして相手の背後に着地する。そして、再びハルバードを大きくして、刃を右ひざの裏に切り付け切断する。ビシャア、またまた血の大洪水。くず折れたヒルトロールBにとどめを刺した。
振り返って見ると唖然として立ち尽くす大柄な戦士。自らの鍛えた肉体を鎧として戦うタイプなのだろう、浅黒い色をした腹のシックスパックが荒い息とともに動いていた。そして、その上には盛り上がった胸筋を包む皮の胸当てが見える。息を弾ませ、上気した顔はまだ幼さの残る少年の顔だ。
馬上突撃をした騎士も足を引きずりながら寄ってきた。左腕はだらりとさがったいる。2人ともまだ自分が生きていることが信じられないようだ。そこへ、あの横柄男がやってきて、ガミガミわめきちらしながら、斧使いの戦士の顔に何度もビンタをする。
「このマヌケめ。もう少しで怪我をするところだったぞ。早く助けにこんか!」
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