初めての街

 さて、どうすっか。適当に時間つぶせっていわれましてもねえ。こんな山の中じゃ、喫茶店も漫画喫茶もなさそうだし。ああ、とりあえず、マニュアル読も。


 2時間ぐらいするとだいたい読み終わった。仕事がら文章読むのは苦じゃないしな。よし、ちょっと試してみっか。


 まずは、武器だな。左の耳から取り出した武器に2メートルぐらいになったイメージを送る。すると俺の中にハルバードが現れた。突き、払い、叩き。周りの木立を相手に振り回してみる。バキ、ドガ、グシャ。すげえ。


 お次は、伸びろ、と念じてみる。ドーン。山の斜面に突き立って、大穴を開けた。よし、縮め。小さくなった武器を耳にしまう。 


 次は、飛んでみるか。左手を腰に当て、右手を時計回りにぐるっと回して、上に突き上げ、両足をそろえてジャンプする。おおおっ。飛んだ。右足を伸ばすとアクセル、左足でブレーキ。ほうほう。お、南の方に街が見えるな。ま、とりあえず降りるか。


 なぜ、街に行かなかったかというと、さっきから無視していた事実。まっぱっだったからだ。なんか前より全身色が薄くなったような。股間を風が通り過ぎ気持ちいいぜ。いや、そんなこと考えている場合じゃないか。


 うーん。見たことある相手に変身できるんだが、この世界で見たことあるのは、あの神様だけだしな。やっぱ、神様の格好すっとまずいよなあ。よし、さっきの街のそばまで行って、隠れながら誰かを観察して、そいつに化けよう。 

 

 1時間後、俺は街の中を歩いていた。相変わらずフルチンだがな。周りからは服を着た旅の商人に見えているはず……だ。この技の難点は自分で確かめられないことだよな。


 さて、いくつか買い物をしたいが金は無い。しかし、大丈夫。適当に繁盛している店に入って買い物の様子を観察し、一旦店を出る。裏通りに入り込み、さっき拾った金属片を握りしめて、先ほど見た銀貨をイメージする。手を開くと、金属片は銀貨に変わっていた。しめしめ。


 先ほどの店に入り、男物の衣類を一そろい買って、銀貨で払う。釣銭で銅貨を10枚ほどもらい、買ったばかりの巾着に入れ、それを袋に入れる。裏通りで、買った服に着替えをする。ごそごそ。よし、これで変装を解けるな。


 さて、腹も減ったな。さっきの釣りで飯でも食うか。店に入り、なんだが良く分からんが、銅貨で9枚のものを頼む。野菜や肉を煮たスープとパン。味はふつー。とりあえず腹は膨れた。


 分かったことを整理しよう。銀貨は1枚で銅貨100枚。銅貨1枚で100円ぐらい。街は人口1万ぐらいか。で、まあ、平和そうだな。言葉や文字は日本語に変換されるみたいで問題なしと。考え事してたら、疲れたな。代金を払って店を出る。


 今日は色んなことあったし、もう寝るか。先ほどと同じ手口で銀貨を作り、宿で前金として払う。部屋に入るとベッドに倒れ込むようにして寝た。

 

 翌朝目が覚めると外は明るかった。ふと、部屋の壁にある磨き上げられた銅板を見ると見知らぬ男が立っていた。栗色の短髪に猿顔の男。ぽかんとした間抜け面をしている。俺が口を閉じるとそいつも口を閉じた。OK。あれは俺だ。


 どーりで、昨日変装を解いても誰も俺のことを訝しがらなかったわけだ。今の顔よりはマシとはいえ、もろ東洋人顔の俺は珍しいはずだ。そういうことか。仕方がないので、宿で飯を食って出立する。


 ゆっくりしたいが、俺の作った贋金は半日しか持たない。バレる前にずらかる必要があるのだ。あまり、こんなことを繰り返してばかりもいられない。どこかで金を稼がんとなあ、とぼんやり歩いていると角を曲がったとたん何かにぶつかった。

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