3話 実況、忘れることなかれ


「困りましたなぁ、王女。我儘を申されては……王宮へお戻りいただき、儀式の遂行をしていただかねばなりませぬ。お母君であらせられる皇后陛下もそれをお望みなのですぞ?」

少女二人に向かい合っている男たちの一人が語り掛ける。俺とリーラちゃんはまだ近くの木々に隠れて様子を見ているが、なんでああいう敵側のモブはやたらと気持ち悪い口調と声をしてるんだろうな。隠れている木はモブ側の後ろにあるからはっきり二人の表情が見える、ムチャクチャ嫌そうな顔してんじゃん。 

二人のうちの、ルケード?とか言われてた女の子が苦悶の表情を浮かべながら男をにらみつけた。


「ざっけんな……あんな、ゴミクズババアの所、なんかに、姫様をっ」

バシッ!!

男が取り出したムチで女の子の頬をぶっ叩いた。その瞬間頭にかっと頭に血が上る。いくらなんでもそんなことするか!?

「いっ……!!」

「皇后陛下を愚弄するとは……分をわきまえろ最下層階級ルケードめ!」

「ティーナ!!」

後ろの方にいた女の子が悲鳴をあげた。あまりのことに飛び出そうとして、リーラちゃんに止められる。

「リーラちゃん!なんで!」

「ウタさんは、この世界に来たばかりなんでしょう?!武器無いし、魔法も使えません!」

「あ……」

そうだ。勢いで森へ来ちまって忘れていたけど、ナイフの1本すら持ってねえ。

「……この近くに木こりのおじさんが住んでますから、何か武器になりそうなものを借りてきます。ないよりマシになるはずです」

「でも、取りに行ってる間にあの二人が!」

「私、こう見えて補助系魔法は一通り使えるんです。今から二人の所に行って盾の呪文を唱えますから、その間に」

不本意だが仕方がない、なるべく早く戻ろうと、走りかけた時、男がお姫様の腕を無理矢理つかんだ。


「ったくこの女のせいで手こずらされた……さぁ、王女!戻りますよ!」

「やめて!離して!」

「姫様!」

嫌がるお姫様の抵抗を無視して男は引きずるように連れていく。その時、お姫様が抱えていた布がはだけた。



包まれていたのは、竜だった。オレンジ色の綺麗な瞳をもった真っ白い竜。あちこちが血で汚れているみたいだが、綺麗にすればどれだけ美しい竜になるんだろうと思うほどに。その竜の表情は恐怖に濡れ、何かを必死に探すようにキョロキョロあたりを見回してる。

ふと、竜のオレンジ色の綺麗な瞳と、目が合ったような気がした。




“たすけて”


“ふたりをたすけて!”



その瞬間、俺は飛び出し、

「ぐほぉっ!!?」

男の横っ面を思い切りぶん殴った。


「え!?」

「な……!!?」

「ウタさん!!」



しまったと思った。武器も魔法もないのにどうすんだよ!と。

でも、まあ。仕方ねぇか。大体においてRPG初めての戦闘ってのは木の棒でなんとかなる。

なら、素手での戦いもそこまでしょっぱい結果にはならないはずだ。普通のゲームと違って、相手を完全にのさなきゃならんみたいなことはないだろうからな。


息を大きく吸い込む。

こうなったらやけくそだ。俺は実況者。やることはひとつだ。


「どもー!ウタと申します!今日から?『ヴァルタナストーリー』始めるわけなんだけど、最初の敵がスライムじゃないんすよね、キモイモブおじさんを装備なしでのさなきゃいけないんだよね!」


女子3人が呆気にとられているのが横目に見えるが、仕方ない。おれ、実況者だもん。もし録画機能生きてたら勿体ねーし。観客オーディエンスの恐怖を紛らわすのも仕事のうちだ。


「さあ、モブおじさんからお姫様たちを早速救っていきたいと思います!」  



俺はアクションもののゲームを思い出しながら、構えをとる。




戦いの火蓋が、そして、物語の幕がいま、上がろうとしていた。

                                                                                                                                                                                      

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