隣部屋
@ネオン
第1話
最初に、これは僕の実体験であり、今だに忘れ去る事の出来ない記憶です。
遡ること今から12年前。東京の叔母の家で間借りをしていた当時22歳の僕は、一人暮らしを始めようと仕事が休みの日は部屋探しに明け暮れていた。
ある日、夜勤明けの仕事帰りに駅前の不動産屋で〔築3年・1階南向き・1LDK〕の真新しい気になる物件案内を見つけた。
(築3年の南向き、1LDKエアコン完備で…家賃6万円っ⁉︎)
思わぬ物件案内との遭遇に、新生活への期待と事故物件ではないだろうか?との不安が頭をよぎった。
5分、いや10分は経っただろうか。
その物件案内を穴が開くほど眺めていると、ポツリポツリと雨が降り始めた。
幸か不幸か、傘を持ち合わせていなかった僕は、誘われるかのように不動産屋の店内へと入った。
「いらっしゃいませ。」
正面のデスクに座るチョイ悪系な見た目の40代と思しき男性が僕に声をかける。
「すいません。外の物件案内で気になる物件があって。」
「どうぞ、おかけ下さい。」
(ヤバいとこの事務所みたいな雰囲気だなぁ…)
不思議な圧を感じながらもイスに座り、気になった物件の事を伝える。
「今朝出したばっかの物件なんですよ!いまどきのオプションも完備しててイチオシですよ!」
チョイ悪系の容姿とは裏腹に、穏やかで物腰の柔らかい口調で明確にセールストークを始めた。
「そうなんですか!でも、築3年のこの条件で家賃6万円って…。事故物件とかじゃないですよね?」
今思えば大変失礼な質問ではあったが、胸中のわだかまりを払拭しようと勇気を出し尋ねた。
すると、何を聞いてるんだ?と言わんばかりの半笑いの表情で
「大丈夫ですよ。もし、事故物件でしたら私どもにも通告義務がありますから。」
と切り返し、ライフスタイル・物件周辺のコンビニやスーパーの場所など一通りの話しを進めたところで
「近場ですし、この後お時間宜しかったら内覧してみてはいかがですか?」
と、契約へ向けた詰めの話にはいる。
(まだ昼前だけど、今夜も仕事だからなぁ…。)
「すいません。今週は夜勤なんで、明後日の14時とかでも大丈夫ですか?」
「分かりました。では明後日、日曜日の14時にお待ちしてます。」
約1時間の会話の末、内覧の予定を入れ不動産屋から外へ出るとポツリポツリとしか降っていなかった雨が、テレビの砂嵐のような音を立ててアスファルトを叩いていた。
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