第8話 炙り出されたものたち
一軒、そしてまた一軒と、訪れる度に気分が重くなっていくのが分かる。
まさか、ここまで多くの町人が、毒に身を侵されていたとは思わなかった。
例の商人から実際に薬を購入した人間は、本当にこの町の住民だったのかしら。
この町はそれ程大きなわけではないけれど、今居る西側の方に住む人たちの症状が、エマたちのご両親よりもさらに重く見えたのは、恐らくこの西側にある井戸から、毒による水源の汚染が始まったからでしょう。
しかし道すがら、ここの町長に会えたのはまさに
これで他の町人たちにも井戸水が汚されている現状が伝わるし、パルマベリーの薬効成分を利用した解毒法の存在も知らせることが出来た。
それにしても――
「…………はぁ」
――本当に下手な尾行。
リゼの方もきっと上手くやっているでしょうけれど、事の元凶もさすがに、私たちの一連の行動に感づいて行動を起こし始めたようね。既に陽も落ちて、今では山稜に残照を残すのみ。
さて、薮を突けば一体、何が出てくるやら。
***
――もう辺りには、夜の帳が下り始めてきた。そろそろ、頃合いね。
「……それで? いつまで私の後をつけているつもりなのかしら?」
「――! へっへっへ、お嬢ちゃん、気づいてたのかい?」
「ええ、随分と前からね。で、これから一体何が起きるの?」
「はっは、そいつはこれからのお楽しみだ」
十時の方向に二人、二時の方向に二人、そして八時と四時の方向にそれぞれ一人。
そして六時の尾行役を含めて、いずれにもあの薬売りの姿が無いところを見るに、恐らくこの連中はただの三下。
「お嬢ちゃん、こんな時間に独りで外を出歩いてちゃ危ないじゃないか。だってこの町じゃもう、叫び声を上げたところでだぁれも助けにきちゃくんねぇんだからさ」
「そうそう。これから俺たちが良いところに連れて行ってやるから、大人しくしなよ。そしたら後でたっぷりと可愛がってやるから」
「あぁ、こいつはかなりの上物だぜ。こんな町じゃまず見つからねぇ。運悪くこんなところに来ちまって、本当についてなかったなぁ、おい」
――こういうのを下衆、というのかしら。
でも、そのおかげで、こちらも遠慮が要らないというのはありがたいわ。
「びびっちまって声もでねぇか。心配すんなよ、優しくしてやるか――うぶッ!」
――ん? この反応、よもやこの程度で、額が割れたとでも?
ただ、リベラディウスの
「あら、ごめんなさいね。隙だらけだったから、つい」
「野郎……やりやがったな!」
「こんな風に?」
「ぐぼぁ!」
――抜くまでもないわね。
あなたたちには鞘の身で十分よ。
「こいつ……! 怯むんじゃねぇてめぇら、一気にかかれ!」
一丁前に抜き身で向かって来るなんて。
数だけが無駄に多くて、面倒だこと。
ただの一瞬で終わらせてあげるわ。
「どぉりゃぁあ!」
「
「ぐがぶぉうぁ!」
――大の男が、女一人相手に、寄って集って、何と無様な。
さて……と、誰から話を聞かなくては。
素直に答えてくれれば、良いのだけれど。
最初に小突いたのにでも、訊ねてみようかしら。
「ねぇ、ちょっとあなた」
「は……ひぃ!」
「少し、訊きたいことがあるのだけれど、良いかしら?」
「い、命だけは……お助けを!」
「それはあなたの返答次第かしらね。私の質問は、たった一つ――」
***
――やはり首謀者は、あの
最初に病人を騙り、いち早く薬を買ってみせたのも、この連中だったとは。
暴騰した薬価を見てもなお、命惜しさに手を伸ばした裕福な町人には目を付けておいて、あとでさらにその生き血を啜ろうっていう寸法ね。
本当、どうしようもない輩が、世の中には居るものだわ。
どんな事情があるにせよ、悪魔に魂まで売ってはお終いよ。
「メル! ご無事ですか!」
「あらリゼ、良い頃合いね。そっちはどうだったの?」
「薬を一通り配り終えた後、いきなり数人の狼藉者に襲われましたが、そのまま返り討ちにして来ましたよ! あとは連中の獲物に付いていた
――やはりこういうことろは手際が良いわね、リゼ。
確かにそうしておけば、後で町の自警団にでも、安全に身柄を引き渡せる。
「そう……ところで、あなた、ちゃんと手加減はしたんでしょうね? ああいう連中だって、一応は生きているのだから」
「はい、そこはちゃんと心得ています。こんな所であらぬものを背負うことになっては、本末転倒ですからね。ただ、のびているだけですよ」
「ならいいけれど。それより、例の薬売りを捕えなくてはならないわ」
話によれば薬売りは、町の外に広がる雑木林を少し西に行ったところにあるという野営地に今も居るらしい。となればあとはリゼと一緒に乗り込むしかない。
あのように下劣な輩を野放しにしておくことなど、私には出来ないから。
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