第五章
第46話 戦いの始まり +登場人物紹介
【登場人物紹介】 第四章終了時点
・大森 陸 /主人公
主人公。大学四年生で、就職活動も終わり内定をもらっていた。
社会経験がなく甘いところがあるが、周囲の人間に恵まれ、ここまでなんとか諸問題を乗り切ってきている。剣道経験者。
・クロ /大森家の飼い犬
紀州犬。シロだがクロ。
転移の際に主人公と会話をすることができるようになった。
少々頑固なところはあるが、犬らしい忠実な性格をしている。
・カイル /孤児院の職員
金髪碧眼の少年。孤児院の出身で、十三歳ながらタフな肉体と高い能力を持つ。
人懐っこい性格で、主人公には実の兄に対するような態度で接している。
主人公の武術の師匠でもある。
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・国王 /王様
国王。茶色がかった髪をしており、立派な法衣を着ている。現在十二歳。
父親が急死したため、三歳で国王の座についた。
現在は若いながらも自身で政治をおこなっている。
・神 /人の神
人間の歴史を眺めてきた神。主人公の強い希望で地上に降臨。
地上では調達した体(長い銀髪の長身男性)を使っている。
長い神生活のせいで、人間とは感覚がいろいろズレている模様。
・タケル /元暗殺者
元『組織』(地下都市)の一員。黒髪ショートの十六歳。
『組織』の命により国王を暗殺しようとするが失敗。
神降臨祭で捕縛され、主人公の説得を受けて国への降伏・協力を決意する。
・ヤハラ /高級参謀
参謀の筆頭的存在。実は『組織』の諜報員で、タケルの上司。
度重なる失敗の責任を取らされて刑死。
・ヤマモト /高級参謀
いつも羽毛扇を持っている参謀。恰好だけは諸葛孔明。
・ウィトス /高級参謀
参謀の一人。ヤハラが抜けてからは筆頭参謀となる。
・ファーナ /将軍
長髪で美貌の女将軍。国王の叔母にあたる。二十代後半。
なんだかんだで主人公のことは評価している。
・ランバート /将軍
ラウンド髭でがっしりした体格の将軍。
・爺 /秘書
国王の幼少の頃の教育係。現在は秘書のような存在。本名ハンス。
・巫女 /神社の巫女
幼少の頃より首都にある神社の巫女をしている。現在十六歳。
普段は白衣に緋袴の巫女姿で、長い黒髪を後ろだけ束ねている。
クロの働きぶりに衝撃を受け、自身も犬を躾けてみようと決意。
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・イチジョウ /町長
主人公が最初にたどり着いた町の町長。
国王やカイルの剣術の師匠でもある。
・エイミー /孤児院の院生
十二歳。赤毛ショートの女の子。院生のお姉さん的存在。
・エド /孤児院の院生
十歳。ぽっちゃりで黒髪おぼっちゃまカットの男の子。料理の勉強をしている。
・カナ /孤児院の院生
九歳。長い黒髪の和風少女。鍛冶屋のお手伝いをしている。
・レン /孤児院の院生
十歳。黒髪短髪でスポーティな風貌だがインドア派。博識。
・ジメイ /孤児院の院生
十一歳。坊主丸顔の昭和男子。預言者。
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「っ!」
つばぜり合いから吹き飛ばされ、無様にすっ転んだ。
受け身は取れていると思うが、衝撃で一瞬呼吸が止まる。
「ふむ。まだ少し時間はあるな。もう一度だけやってみよう」
「あ、あの、ちょっとキツい……かも……です……」
町長の剣術指導は少し厳しめだとカイルから聞いていたが、とても「少し」どころではなかった。想像を絶した。
疲労と酸欠で死にそうだ。
起き上がるときに見えたが、子供たちが入り口近くに座り込み、ニヤニヤしている。
タケルは立ったまま、何ともいえない微妙な表情で見学。
そしてなぜか神も立ったまま見ているのだが、その顔は無表情だ。
クロは……ペタンと体を休め、目だけこちらに向けている。
「ははは。言わなくても見ればわかるよ。けれども、この後わたしは子供たちを連れて帰らないといけないからね。少しでも君に伝えたい。苦しいところ申し訳ないが、すぐやろう」
「は、はい」
***
「し、死ぬ……」
猛烈なしごきの後、フラフラのまま水浴びをし、子供たち全員と抱擁し、町長と子供たちの馬車を姿が消えるまで見送り、部屋に戻ってきた。
もちろん、そのままベッドに直行である。うつ伏せで倒れ込んだ。
「大丈夫? 兄ちゃん」
「あんまり大丈夫じゃない……」
「ありゃりゃ」
また、頼んでいないのにカイルのマッサージタイムとなる。
ツボを押す指圧ではなく、筋肉をさすったり圧迫したり動かしたりするスポーツマッサージだ。
彼はもともと指圧のような手技しか使っていなかったが、俺が部活で覚えたスポーツマッサージを前に披露したところ、気に入ったらしい。教えてくれとせがまれた。
特に断る話ではないので教えたが、彼はあっという間に覚えてしまい、すっかり上手になっている。
「でも、なんで急に町長が教えてくれることになったんだろ」
「あー、町長さんが、兄ちゃんの腕がどれくらい上がっているのかチェックしたいって言い出してさ」
「そうだったのか」
「うん。オレだと兄ちゃんに厳しく訓練できてないんじゃないかって、心配してたんだよね」
「お前、俺のこと大好きだもんな」
「うん。そうなんだよね。どうしても手加減しちゃう」
「……いや、今のは冗談で言ったんだが」
「別に冗談じゃなくていいよ?」
「キモっ」
ベッドのそばの椅子に座っているタケルが、「二人は仲いいですよね」と言って微笑んでいる。
まだ硬い笑いだが、それもそのうち解れていくだろう。
「そういやさ、カイル。お前はずっと町長に剣術を教わってたんだろ? そのときもあれくらい激しかったのか?」
高校の部活でさえも、あんなに激しい練習をしたことはなかった。
十三歳で町一番の腕だったという金髪少年は、どんな修行をしていたのだろう。
「うーん。オレのときはもう少し厳しい感じだったかも? 四歳くらいから町長に教えてもらっていたから、最初は少し楽だったけどね。慣れたらすぐ厳しくなった」
カイルは俺の期待を裏切る答えを返すと、「タケルさんはどうだったの?」と振った。
「そうですね。僕の場合も、もう少しきつめに教えてもらっていた気はします」
多数決の結果、二対一で、さっきの俺の訓練はまだまだヌルかったということに決定した。
俺の根性がなかっただけの話だったようだ。
「タケルは何歳くらいから訓練を?」
「僕も四歳か五歳くらいですかね? 生まれる前から戦闘員として育てるって決まっていたらしいですよ」
「凄いな。両親はどう思っていたんだろ?」
「どうでしょう? 親が誰なのかわからないんですよね」
――え?
足に感じていたカイルの手も、一瞬だけ止まった。
「あのお……もしかして。聞いたらまずい話だった?」
「いえいえ。地下都市ではそれが普通です」
「そ、そうなのか。なんだかすごい話だな」
「そうですかね? 人口が一定になるように、出産は当局が管理しているんですが、生まれた子供はすぐに専用の施設に移されるんですよ。
だから育ての親……というよりも担当者ですね、そのような人はいますけど、本当の親が誰かは僕も知りません」
サラッと言ってはいるが、俺にしてみれば驚きの事実である。あまりにも衝撃的すぎた。
「もしや、親も、どの子が自分の子か知らなかったり……とか?」
「そうですね。顔が似ていれば、だいたいわかることもあるのかもしれませんが。同時に育てられた子供が何人もいますし、ある程度育つまで施設外の人とは会いませんので、顔が似ていない場合は特定できないと思います」
……。
そんなことがあってよいのだろうか。
育成まで当局がコントロールするということになると、親子の縁などない方がよいという結論になったということなのか。
地下都市の性格から、人口の増減を管理する必要があるということは、理解できなくもないが……。
親子の縁が無い世界。自分には想像もつかない。
俺の時代で、家に政府の人が来て、「あなたの子供を頂きます。戦闘員として育てますのでよろしく」なんて言おうものなら、その場で蹴り飛ばされると思う。
タケルの淡々とした口ぶりからは、親子の縁はないことが当然だと思っている感じだ。
しかしながら、はたしてそう簡単に割り切れるものなのだろうか?
やはり余計なことを聞いてしまったのではないか?
「やっぱり聞くべきじゃなかったな。ごめん。忘れてくれ」
「いえ、本当にこちらでは普通のことなので、気にしてませんって」
「へへ。兄ちゃんはオレのときも同じようなこと聞いて反省してたよね」
「あー、そうだったな。なんか俺、無神経なんで、あまり考えないまま聞いてしまうんだよなあ」
「え? カイルくんも僕と同じなんですか?」
「うん。オレ孤児院出身だから親はいないよ。誰かもわからない。オレたち似た者同士だね」
うつ伏せの俺には、カイルの表情はわからない。だが二人の声のトーンやタケルの表情を見る分には、両者ともいつもとそんなに変わらないようにも感じる。
「そういえば、クロさんって両親はいるんです? もし聞いてもよければ……」
今度はタケルのほうから聞いてきた。
「クロの両親、か」
クロを呼ぶと、こちらの枕元近くに来た。そしてお座りの姿勢になる。
喋ってもよいかと聞いたら「構わない」と答えた。大丈夫のようだ。
「実は、クロはまだ仔犬の頃に、両親と別れているんだ」
「そうだったんですか。じゃあ三人とも同じ境遇ということになりますね」
「あ。兄ちゃんだって親はこの時代にいないよね? そうなるとここにいる四人全員が同じなんじゃないの?」
「なるほど……リクさんも……」
「ああ、そう言われれば。確かに俺もこの時代にはいないな。まあでも、俺の場合は、元の時代に戻れば会えることになるわけだから、お前らよりは条件がよいけどな」
あくまでも戻れれば、ではあるが。
――親、か。
今頃、何をしているのだろうか。
もう八か月くらい経つことになるので、さすがに俺のことは死んだと思っているに違いない。
それを覆せるかどうかは、このあと神との約束を履行できるかどうかにかかっている。
「あ、そうだ。クロさんが仔犬の頃に両親と別れたということは、クロさんが強いのって、リクさんが戦い方を教えたからなんですか?」
「ん? 俺はクロには何も教えてないぞ」
俺の家族はクロに対し、かなりしっかりと躾をしていたと思う。
家には犬の躾に関する本があった。俺は世話にほとんど参加していなかったので読んだことはなかったが、俺以外の家族は全員それを読んで躾をしていた。おかげで、クロの行儀は非常によい。
ただその本にも、さすがに「戦闘のさせ方」などという項目はなかっただろう。
気になったので、本人に聞いてみることにした。
「クロ。お前は戦いかたを誰かに教わったのか?」
「私は誰にも教わっていないが」
「訓練したわけでもない?」
「していない」
「ホントか? 勉強しているのに『おれ全然勉強してないよー』とか言って満点を取る嫌なヤツじゃないよな?」
「……どういう意味だ」
「いや何でもないですごめんなさい」
「クロさんはなんて?」
「誰にも教わってないってさ」
「そうなんですか。教わっていないのに戦えるというのは凄いですね」
「なるほど。まあ、凄いのかもしれないな」
言われてみれば、である。
人間の場合は、他人に教わって、そして自身でも特別な努力をしない限り、まともに戦うことすらできない。
しかし、犬は生まれながらに戦える。
犬は戦いに適した生物だといってよいのかもしれない。
……。
そう考えていくと、人間は決して戦闘に向いている生物ではない、ということにもなる気がする。
それでも歴史上では、人間は戦ってばかり。なんともおかしな話だと思う。
「カイル、もういいぞ。ありがとう」
「まだ大丈夫だけど?」
「出たよ……。どうせ上に乗っていたいだけだろ」
「へへへ」
「はいはい降りた降りた」
タケルが「やっぱり仲いいですよね」と微笑む。
と、そのとき。
近くにいたクロの顔が入り口に向いた。そしてそのあと、扉をノックする音がする。
返事をしたら扉が開いた。兵士のようだ。
「オオモリ・リク殿、打ち合わせをするそうなので、準備ができ次第お越しください」
――ああ、さっそくやるのか。
その中身がどうなるかはわからないが、これから敵組織――地下都市に対してアプローチをしていくことになる。
『戦い』が始まる。
願わくば、それが平和的な手段だけで済みますように、だ。
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