第31話

「タカシさん、私怒ってます」


そういって頬を膨らませながら腕を組み仁王立ちしている少女が一人。肩で切りそろえられている金髪から長い耳がのぞいている。そして少し離れた位置に正座する青年が一人。その左腕には全体を覆い隠すような銀の手甲を身に着けており、それ以外は革であしらわれた軽装備を身に着け、長い緑色のマントは正座をするにあたって座布団のように彼の足元にひかれていた。


「アリシアちゃん。よく考えてくれ。白等級のクエストであれだけの報酬のクエストは中々ないんだ。それにほぼ無傷でモンスターも持ち帰ったからアリスさんもすごく喜んでくれた。それに一か月とは言わないけどこれでしばらくはくいっぱぐれもない。みんな幸せではっぴはっぴはッ……ぶべらッ!?」


そんなタカシの言い訳を半ばにアリシアが手に携えた杖をタカシの脳天にたたきつけた。頭を抱えもだえるタカシを横目にアリシアが顔を近づける。


「えぇ、生活が苦しいのはわかりますよ。クエストの横取りもまだわかりますよえぇ。でもこれはさすがにやりすぎではないですか、ねッ!?」


とアリシアがタカシの顔に張り紙を押し付けた。そのクシャクシャになった紙を顔から剥がし覗くとそこには注意喚起の文字が綴られていた。

そこには『注意喚起 トンジル?おじさんと名乗る人物について』という文字がつらつらと大きく載せられていた。


「……何か心当たりあるんじゃないですかね?」


「はて?これは一体……バボレッ!?」


しらをきろうとするタカシの頭に追撃の杖が振り下ろされる。ため息を一呼吸置きアリシアがタカシの手からひらりと落ちた注意喚起の張り紙を手に取り、続きを読み上げる。


「コホンッ……えぇ、草原にて悪質なクエストの対象の横取りがありました。トンジル?おじさんと名乗っていたそうです。細身でそこそこな長身の人間の男性。変わった飲み物を配りそこに眠り薬を一服もったようです。白等級のクエストの多重契約は経験値の不足を補うため、または不測の事態にあたり他階級の冒険者が救援、または援護に駆け付けるための救済処置です。そのシステムの悪用は厳禁です。白等級の冒険者はお気を付けください、だそうですけどこれ以上言いたいことありますかね」


アリシアの言葉にタカシは目をそらし口ごもる。しばしの沈黙の後、タカシが顔を上げ、親指を立てる。


「……だまして悪いがしご、とぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおッ!?イタイイタイからぁッ!?」


またしてもタカシの話を遮るかのように瞬間アリシアのコブラツイストがタカシの炸裂する。


「わかった、わかったから!?俺がやりましたっ!俺がやったから!」


自身の非を認めるタカシであったがアリシアのコブラツイストは緩まない。むしろ先ほどよりきつく締まってるまである。

「ばかこのぉっ!!モンスター用の素材を人間に使うバカがあるかっ!どうすんですか、これからどうすんですかッ!?」


「うごッ……わがっだ、俺がわるかっあだだだだだっ。やつがれがわるぅござんしたッ!!」


「ちゃんと謝って、き、な、さいぃ!!!」


体制を変えタカシの首元を締め上げる。体制はさながらフロントチョークのような体制で180cm近くある男の体を僅かに浮かせる。


「これが最後の技です。タカシさんッ!」


食いしばったタカシの歯が全て砕ける。そのまま気を失ったタカシをアリシアはその場に静かに降ろす。


「……後で回復魔法でもかけてもらってくださいね」


「……もうそれ言いたかっ……ただけ、やん」


その言葉を最後にその場にこと切れたタカシであった。

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