第24話

 夜、蝋燭に灯る淡い光に包まれる宿舎の一室でベットに寝転びながら天井をタカシはただじっと見つめていた。隣では気持ちよさそうに寝息をたてるアリシアの姿があった。日中露店を散々見て回ったため疲れたのだろう。


 おまけにあれもこれもと露店で興味が出たものを片っ端から食べるものだから最初に長老からもらったお金はほぼほぼすっからかんである。


しかしアリシアの楽しそうな顔を見たら買ってあげたくなってしまった。女の子の笑顔程ずるいものはないと悟るタカシなのであった。




「明日からどうすっかなぁ……」




 単純な話ギルドで依頼を受ければいいのだが、自分が銀等級の冒険者だという事が広まってしまって安易な依頼を受けようものなら強力なモンスター退治にでも駆り出されそうなのが不安要素である。


それに今夜はマルクがとってくれた宿があるが、明日からは自分達の力で生きていかなければいけない。


それを考えれば露店で金を落としたのは無計画にもほどがあると頭を抱えるタカシであった。ただ今考えても仕方ないと頭を振る。明日の自分にまかせて今日は寝よう。そう思い立ち両手で頬を叩き明日から頑張るだろう自分を鼓舞する。




「よし、寝よ」




 そう思い机の蝋燭を掻き消そうとした時であった。炎がゆらゆらと揺らめく。


左手のフレアを見る。どうやら炎を欲している様だ。




「あ、そうだったな。お前もいきてるんだもんな」




 左手を覆う手甲を外し、フレアで構成された腕を露出させる。フレアは僅かに青みに濁りを見せていた。すると一気にフレアは蝋燭に灯る炎を吸い上げる。僅かに体に熱が伝わってくるのを感じる。体がフレアを体の一部として認識し始めたのだろうかはわからないがそんな感覚が体を伝った。




「お前液状なのに餌が炎ってつくづく変わってるよな。そんなんで体維持できるのかよ」




 フレアはもちろん答えない。相も変わらず小さな蝋燭ろうそくの炎を消えない程度に器用に少しずつ吸引している。その光景を眺めながらタカシは大きくあくびをした時であった。蝋燭の炎が突如消えた。




「なんだ吸い終わったのか、んじゃそろそろ……」




 突如けたたましい音が街中に響き渡る。咄嗟に耳を抑える。




「な、なんだッ!?」




 立ち上がり外に目をやる。遠目に見て取れる程度だが市門の前に点々と光が見える。


何かあったのだろうか。とりあえず服を着る。念のため片手剣を片手に持ち宿舎を後にし、市門へ向けて走り出す。道中行商人だろうか、荷車を引いた馬を何台か見かけた。




(こんな夜遅くに、一体なんだ?祭り……ではないだろう。何となくいやな予感がする)




胸の中の嫌な靄を払うようにとにかく走った。




「はぁ……はぁ……やっとついた、いがいと、距離あるな」




 タカシ達が泊ってる宿舎からだと二キロもないくらいなのだが運動不足気味、おまけに幾度となく訪れる戦いによる筋肉痛に走る体が軋んでいるのを感じる。


息を荒げどうにかついたタカシが見たのは市門の前に集まる荷車や大荷物を抱えた人達であった。数人の門番が必死に人々をなだめていた。




「どうして通してくれないんだッ!」


「落ち着いてください。この市壁を破られることは万一にもありませんのでご安心ください」


「いいからッそこを通せよッ!」


「そうだッ!そうだッ!」


「ですから万が一にも市壁が壊されることはないのでご安心くださいッ!ギルドの掃討作戦も始まっています!ご安心くださいッ!」




 市門の前で揉み合いになっている人達を眺めながらごった返す人ごみの先にどうにかいけないものかと確認していると後ろから声がかかる。




「タカシ、タカシじゃないか」




タカシが振り返るとそこにはエレノアとチームうりぼうズの皆がいた。




「おぉ、エレノア。この状況は一体……」




「私も詳しくは知らないんだがな、なんでも市壁の外に大型モンスターがでたらしいんだ。それもそこそこ大きいらしい。壁の外の連中が外にはぎょうさん詰めかけてるらしいがて……それもあって市門を開けられないみたいだな」




「そうなのか。ハクトは飛ばせないのか」




「無理だな。今ここに呼ぼうものならそれこそ外のモンスターとかわりゃしない。駆逐対象になっちまう」




「そうか。くそッ……壁の外ならベヒ美を呼べるってのに」




「それこそハクトと一緒だ。駆逐対象になってギルドに連中の餌食さ。でも……」




 エレノアが僅かに口をつぐんだ。何か思いついたか、もしくは何か思い当たる節があるような顔をしてゆっくりと口を開いた。




「ひとつだけ……確実に勝てるであろう手がある。ただ真意は定かではないが」




「本当か?それは一体……」




「銀等級」




 その言葉に胸がジクリと痛む。嫌な予感がする。不思議と次に出てくる言葉が手に取るように分かった。だからこそその先の言葉を遮りたかった。




「銀等級の冒険者がこの街にきてる。あまり他人頼みってのは好きじゃないが、よもやこれしかないといってもいい」




「……でもそいつはもう街をでたりしてるんじゃないか?」




 咄嗟にでた言葉だった。すべてを否定したかった。「でも……」とエレノアが続けようとした時であった。




「タカシッ様!」




 またもやタカシの名前を呼ぶ声がする。この声聞き覚えがある。それも昼間にいったギルドで。それを知っていたからタカシは振り向く事が出来なかった。




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