第21話
「へぇ……そんな事があったんだ」
「あぁ。色々大変だったよ。アリシアさんにも迷惑かけちゃったし」
「そんなことないですよッ!むしろ私足引っ張っちゃって」
彼らは行商人の荷車の中にいた。タカシ達が乗っている荷車と前にもう一台、そしてその後ろにベヒ美がつい来る形で荒野を揺られていた。エレノアがどうやってダンジョンモンスターのベヒモスを仲間にしたのかを知りたいを言うので今までの経緯を少し話していた。無論転生のなど深く突っ込んだ話まではしてはいない。エルフの森に関しての話もそうだし腕の話もしなかった。一応あれでも隠れ里なので話は伏せてある。田舎から出てきた旅人という設定の元話を進めている。エルフの里の外で育つエルフも多いため無理もないようだ。以後アリシアもそれを察したのか、相槌を軽く返すくらいの対応のみで会話をうまく流していた。
話したことと言えば自身が初めてダンジョンに入った話。そこでモンスターを使役するスキルを持っていた事を知った話。スライムがすごく強かった話。ベヒモスに殺されかけた話をかいつまんでした所エレノアもアリシアも思いのほか食いついてきた。
アリシアも全容はしっていてもダンジョン内の話までは知らなかったので興味があったようだ。
「ふむ、しかし初めてのダンジョンでベヒモスにあってよく無事だったね。おまけに仲間にしちゃってるし。きっとタカシはいい冒険者になるよ」
「そうなんですよ。ほんとタカシさんすごいんですよ。それに比べて私は足引っ張ってばかりで……私ももっとお役にたてるように頑張らないとッ!」
「アリシアさん、ほん、すこ」
「え、何かいいましたか」
「え、いやなにもいってませんよ。ハハハッ……それよりもエレノアもあの大きな鳥のモンスターを連れてたけど使役する事ができるのか?」
「あぁハクトの事か。私はさっきも言った通り捨て子でな。たまたまオークの一族に拾われたんだ。だからかはわからないけど物心つく頃には動物と話す事が出来るようになってたのさ。ただ全部が全部のモンスターや動物と話ができるわけじゃないけどな。ハクトは私が子供の頃に拾って育てたってのもあるな。だから使役とはまた違うのさ」
「なるほどな。いいなそういうの俺には難しそうだ」
「でもタカシさん、ベヒ美ちゃんといっつも仲良さそうですよ?」
「そうかな」
何気なく荷車の外のベヒ美を見る。ベヒ美の表情は相変わらず変わらない。無論モンスターに表情の緩急があるとははタカシには到底思えないが。隻眼の瞳はまっすぐと前方をを捕え、歩いているだけだ。よくテンションが上がる時と応答する際に咆哮をあげるが、それくらいしかベヒ美の意思の変化をタカシはくみ取れない。それ以前にモンスターに感情といったものがあるのかが疑問である。タカシのスキル〝スカウトン汁〟の効果で使役できているだけでそれが無ければ本能のままに暴れる化け物だ。
現にタカシも片腕を持っていかれ命を奪われかけた。だがこれがタカシの能力の一つであるのならその証にベヒ美と左手のフレアを連れているのも悪くないと考えている。支配下にあるとはいえこの短時間でタカシはこの二匹に幾度となくピンチを救ってもらった。そういった意味では感謝している。だがそういった能力抜きでの主従関係を築けているエレノアとハクトは本当の意味で硬い絆で結ばれているのだろう。
(俺もいつかこいつらとそんな関係を築ける日がくるのだろうか。いや、やめよう。所詮は自身を守る手段だ。割り切っておかないと何かあった時怖い)
この先に起こるかもしれない未知への恐怖についてタカシが思いをはせている頃、アリシア達は荷車の外を眺めていた。アリシアもエレノアも今まで森で育ったためか荷車から見る外の風景に夢中である。アリシアが何かを見つけたようで指を指しタカシの肩をゆする。
「あ、あれッ!タカシさんあれ、街ですよ街!存外近くにあったみたいですね」
アリシアが指さす方を見ると薄っすらではあるが街らしきものがぼんやりと見えてきた。
もしかして長老はあえて街の近くに飛ばしてくれたのかもしれない。
(ったく親切なんだかそうでないんだか……まぁありがたいけど)
もはや一生会う事はないであろう今作最大の濃いキャラクターである長老の事を思いだしながらタカシ達は荒野を街に向かい、揺られるのであった。
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