第3話
「いててて……ん?」
気がつくと見知らぬ天井が広がっていた。やたらと騒がしい。
「人間が目を覚ましたぞ……」
「一体どうやって里に侵入したんだ……」
「それな。てか一匹だけなのか?他に数体いる可能性ありけりでは?」
「下種が……」
様々な声を耳にする。この世界では人間という種族はエルフに忌み嫌われているのかもしれない。少なからず里のエルフには忌み嫌われる存在の様である。手足は縛られている様で動かせない。頭にも布が被せられていて辺りが確認できないが、光源が部屋の周りに何点か確認できる。恐らく松明の明りだろう。
「しずまれいぃッ!」
野太い男性の怒号があたりに響くと同時に、一瞬にして静寂が訪れる。
「人間を起こせ」
その言葉に従うように三人程のエルフに無理やり起こされ、顔に被せられた布を引きはがされる。
「ぷはぁッ」
目の前には長い髭を蓄えた老人のエルフが座っていた。恐らくこの村の長老にあたるエルフなのだろう。この長老を中心に6人の男女混合のエルフが、たかしを囲む形で座っていた。
その中には先程たかしを捕まえた女性エルフの姿も確認できる。そしてその後ろに申し訳なさそうにアリシアが立っていた。
「人間よ……どうやってこの里に入った?」
低く、尚且つ重い声が部屋に響く。その目には確かな怒りと一握りの恐怖が見て取れる。
何か言葉を発しようにも老エルフの威圧が凄まじく、体が強張ってしまった。
おまけに六人のエルフに囲まれている。
(あっれぇ……俺が知ってる最初の村の長老じゃないんですけど。全然優しくないんですけど。中ボスクラスの威圧放ってるんですけど。怖くて動けんのですけど。いきなり二度目の人生終わりそうなんですけどッ!)
とたかしが何も言えずにいると周りのエルフ達の怒号が響く。
「やはり処分すべきです。長老ッ!」
「そうだっそうだぁッ!打ち首だッ!」
「……沈まれ」
静かに長老が他のエルフを諭す。そしてもう一度たかしに向き直る。
「もう一度聞く。どうやって里に侵入した」
「わた……わたつぃわぁッ!」
緊張で噛んでしまった。しかも思いっきり舌を噛んだ。ビリビリとした痛みで言葉を続けられない。
「貴様ッ!ふざけているのか!」
後方にいるエルフが殺気立って片膝で立ち今にもたかしに襲い掛かろうとしたときだった。
「おじいさまッ!この……人はっ!里の前に倒れていて!わっ……私が里に、招き入れましたッ!」
一同が唖然とする。声の主はアリシアだった。
「なん……だと」
「いくら長老の孫だろうと……それは」
長老が手を上げ、周りを制す。
「それは誠か……アリシア」
「はい。私が連れて帰りました」
「そうか……では覚悟はできているな?」
「……はい」
「その男とアリシアを捕えよ。明日処罰する」
老エルフの発言と共に、アリシアが拘束される。
「まてッ!アリシアさんは関係ない!俺が……俺が迷い込んだだけなんだっ!本当だっ!だからその子は関係ない」
必死に声を絞り出す。長老はたかしの言葉など気に留めるでもなく奥に入っていく。
自分を救ってくれたアリシアまで自分の都合に巻き込んでしまう。それだけはいけないと自身に言い聞かせ、必死に考える。しかし冷静さを欠いた頭の中に言葉はでてこない。
必死に長老を追いかけようと体を前に進めようとするも手足が縛られている事を無我夢中ですっかり忘れていた。前のめりに地面に倒れる。それでも地面を這ってでも長老の背中を追いかけようとするも髪を掴まれ拘束される。
(ッ!……このままではだめだ……何か、何かないかっ……ッ!あれならッ!)
「俺は……転生者だぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおっ!」
頭に浮かんだ言葉がこれだった。大声で叫ぶ。自分のありったけを持って叫び散らす。
「ッ!うるせぇ!」
と顔面を蹴られそうになった時だった。
「待て」
寸前で蹴りが止まる。
「しかし……」
「聞こえなかったか?待てといったんだ」
そこには先程部屋の奥へ入っていったはずの長老の姿があった。
「お前たち下がっていなさい。私はこの人間と話がある」
「しかしッ!この人間と二人きりなど長老の身に何かあったら……」
「いいから下がりなさい」
「っ……はい。行くぞっ」
先程までたかしの周りを囲んでいたエルフ達が次々と部屋を後にする。
そしてそのエルフ達に連れられてアリシアも部屋を後にし、屋内にはたかしと長老の二人きりが残されたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます