転生したらLv.MAXで最強個体の豚でした

@tubamitu

第1歩 初めまして、豚生よ

 俺の名前は、部谷ぶたに くう。 よく子供のころは豚肉、豚肉と言われていたが、今は豚とは何ら関係の無い仕事についている。出張先に向かって、高速道路に乗り車を走らせている所だ。


 すると、目の前に豚を乗せたトラックが見えた。ああ、どこかに出荷されていくのだろうか……と考えたその瞬間、豚のトラックがスリップし、事故は起きた。俺の車を巻き込んで。

 ……おい、嘘だろう、まさか最後まで豚と絡んで人生が終わっていくなんて。だったらいっその事、次回は豚肉と関係ない人生がいいな……。



 で、俺が次に目を覚ますと、どうやら草原に寝っ転がっているようだった。起きようと思ったが、なぜか手足が短くて起きられない。子供にでも転生したのかな?……にしては、やけに手足が薄桃色な気がする……えっ?


「ブヒ───!!」

 思わず悲鳴をあげた。しかも豚の鳴き声だ、間違いない。俺は豚肉と関係ない人生がいいと思っていたのに、豚になってしまっていたのだ!

 何でだ! 神様の馬鹿! 何で、豚肉と関係ない人生がいいのにと俺は言ったのに豚に転生させるんだ! と、ブヒブヒ興奮しながら、短い豚足でトントンと地面を叩くだけ。ああ、もう自分を見てられない。


 ──と、その瞬間、俺は何かを感じ取った。匂いだ。人間の匂いがする気がした。なぜ人間だと断定できるかは分からないが、このままじゃあ脱走した家畜と間違えられて間違いなく食卓の豚肉行きだ! 俺は逃げる事にした。


 逃げ足は、やたらと早いようだった。人間の全速力よりも早いのではなかろうか。あれ、この見た事ない草原の世界が仮に異世界だとして、異世界の豚ってこんなに早いのだろうか?目線は低いけれども。

 目線の低さをカバーするように、次々と匂いを感知していく俺の鼻。前方に人間の子供だ、左へカーブ。そして次は少し右寄りに豚……えっ、豚がいるのか。家畜小屋だと嫌なので、とりあえず慎重に走った。


 着いた所は、家畜ではなく、野良の豚の集落だった。野良豚がこんなにいるのか、この世界は。まず第一豚民を探そうと思ったが、走って腹が減っているので、鼻が指し示す方向にゆらゆらと歩いていった。結構体力使ってたんだな……。


「あれ! お前も野良の豚民か? ようこそピーグ村へ!」

 冒険者を出迎える村民のように出迎えてくれた、野良豚のオス。ピーグという村らしい。それに豚同士だと会話が通じるみたいだ。

「悪いけど、ご飯ってあるか? 人間から逃げて来たらお腹空いちゃって……」

 するとこのオスの野良豚は、豚の目から見て驚いた顔をしているように見えた。

「えっ、お前人間から逃げきったのか!? すげーな!」

「そ、そんなに凄い事なのか……?」

「だってあいつニンゲンら、俺たちピーグの民を根絶やしにするって噂で持ち切りなんだぜ! フォーク持ってなかったか? 俺のいとこのピーコはフォークで刺されかけたんだ」


 いや、それは家畜が逃げたと勘違いしただけでは……とは言えずに、エサ場、もとい食事処まで案内してもらった。


「ここが野草の生えてる所! たまーに毒があるから注意な!」

「見れば分かるよ、これが毒だろ?」

 この質の良い鼻でかぎ分けると、また驚いたオスの野良豚。

「おー、野良で生き延びてきただけあって詳しいなお前ー! そういや俺たち名前言ってなかったよな、お前なんていうんだ? 俺はピクシェス!」


 ピクシェス、無駄にカッコいい名前である。ピが付けばいいのだろうか。


「え、えーっと……ピスカでいいよ」

 なんとなく、元の名前「空」から持ってきてピスカだ。

「ピスカ、カッコいいな! じゃあ、長老のブゲル様の所まで案内してやるよ!」

 長老クラスになると、ブが付いても許されるらしい。


 ブゲルは、かなり年寄りの豚だった。既に豚の平均寿命まで生きている感じは漂ってくる。


「えぇ、わしが、ブゲルじゃ」

 年のせいか、どこか弱々しい言葉。

「長老様ー! 新しい豚民を連れてきました、ブヒッ!」

 かしこまった時にブヒと音が漏れた瞬間、つい笑ってしまったがここは笑わない方がいい場だったのだろうか。

「あた?あたらしい、とんみん?ほうほう、名前は?」

 長老様は、ちゃんと聞き取れているのか? と思いつつも、自己紹介した。

「ピスカです、長老様。 お世話になります」


「ほう……そなた、おそろしくおぞましい、おーらじゃ」

「オーラ、ですか?」

「ぶたにしては、おそろしい、おーらじゃ」

「……どのようなオーラでしょうか?」

「おのれで、かんじとれぬ、ほどの、おそろ……ブフォッ!」


 長老様が、まさか目の前で倒れるとは誰も思っていなかった。


「ブヒィィー! 長老様、もう死なれるのですかぁぁ!」

 ピクシェスが慌てながらも必死に匂いを嗅ぐ。が、首を横に振った。

「……ピスカ、もう長老様はダメみたいだ」

「え、それって……寿命か?」

「俺たちで埋めてやろうぜ、ピスカ……」

「他の豚に知らせに行かないと駄目だろ、ピクシェス」

 そう俺が告げると急にハッと顔を上げ、

「あっそうだな!じゃあ俺が知らせてくるよ!!」

 と、ピクシェスは去っていった。何なんだ、お前は。


「長老様……初めてお会いしたのに、もう……。」

 すると、長老様は少し動いた。

「長老様?」

「……そなたに、つげて、おく」

「まだ喋れるのですか?」

 長老ブゲルは、弱々しく前足を上げた。


「次の、ちょうろうは、そなた、じゃ」


 思わず周囲を見回した。周囲には俺しかいない。え、集落に入ったばかりの俺でいいのか?

「そなたが、おーらを、りかいできた、とき、まことの、おさに、なれる」

「どういう意味ですか! 長老様!」

 俺が声をかけると、もう長老様は返事をしなかった。そして豚たちがゾロゾロと集まってきた中に、ピクシェスがいたのを鼻で感じ取り、ピクシェスへ駆け寄った。


「長老様の最後の言葉、聞いたよ」

「えっ、喋ったのか!?」

「俺が長だって」


「……冗談はやめてくれよー、お前が長って、え? まだ入ったばかりのお前が!? ええええ!?」

 ピクシェス、いちいちリアクションの大きな豚である。

「俺しか聞いてないから、信憑性はそりゃ低いけど。信じてくれるか?」

「信じる! 信じるけれども、確かにお前鼻が利くやつだとは思ってたけど、そんなにか!?」

「そんなに、らしいんだよ」

「てか、よくそんな冷静に聞いてられるよな!?」


 そりゃあ、流石に内心はドキドキだ。でも、豚に転生した俺に秘められた力があるって事か?それって一体、何なのだろう?


 ──長が召された事によって、俺の豚生、変わっていくのかもしれない。

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