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「でも、どうしてです?」

 俺が店を開けていようと、ほぼ来客がないような天気だと言うのに、どうして今日? しかも二人揃って。

「あぁ、それは。実はこれ」

 そう言ってルカさんは鞄の中からチャックの付いたビニールの袋を取り出した。中には大きな封筒が入っていて、その中から出て来たのは一冊の雑誌だった。

「これを渡したくて」

 そう言ってルカさんが両手で手渡してくれたもの。一瞬、どこの雑誌かと思った。名前はルカさんが担当している美容雑誌なのに表紙にはアーティスティックなメイクを施された男性がいたから。もしかしてこのシルエット・・・

「マリオ君、ですか?」

「そう! そうなんです!」

 嬉しそうに手を叩いたルカさんの隣でマリオ君は照れたように顔を伏せる。耳が赤い。

「わぁ、マリオ君なんですね、凄い! わぁ、イケメンだ。わぁ」

 パラパラと捲ると、巻頭から結構なページ数でマリオ君の特集が組まれていた。

「本物のモデルさんみたいですね」

 いや、正直その辺のモデルより男前だぞ。こんなに濃いメイクなのにピッタリと似合っているし、堂々としていて男らしい。舞台俳優をしていると言っても普段はフワフワとした天然なのに。こんなにも格好いい。

「や、やめてください、恥ずかしい、です」

「こんなに堂々としているのに、何を今更恥ずかしがっているのです」

 しかも全国紙だぞ?

「マリオ君、凄いでしょう? 今回も本当に恰好良くて。写真を選ぶのに苦労しましたよ」

「そうでしょうね、だってほら、これなんて男の私でもドキドキしてしまいますもの」

「や、やめてぇ」

 両手で顔を覆ったマリオ君がブンブンと頭を左右に振る。雑誌の中ではこんなに男らしいのに、なんて可愛いだろう、この子は。

「本当にマリオ君のおかげでいい本になりました」

「ふふ、ルカさんの腕でもあるんじゃないですか?」

「ま、それもありますけれど」

 なんてルカさんは得意げに言う。そうだとも、ルカさんは大好きなメイク、雑誌にいつも真摯だもの。

「でも一番お礼を言いたいのは、マスターです」

「え、私?」

 どうして。この雑誌もこのグラビアも、ルカさんとマリオくんの努力の証しでしょう?

「それもそうですけど、そうじゃなくて。マスターがいなかったら俺とマリオ君は絶対に出会うことがなかったから。例え出会っていたとしても、こんなに素敵な本を一緒に作ることは出来なかったから。だから、ありがとうございます」

 ルカさんはそう言ってニッと笑って、マリオ君も満面の笑みで頷いてくれた。

 あぁ、そうか、うん。

「こちらこそ、ありがとうございます」

 二人からもらった雑誌は、実はまだ発売日前だそうで、渡したことは秘密にしてくれと言われた。誰にも言うもんかい。

 これはもう、俺の大切な宝物なのだから。

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