はけ口怪談

空野雷火

ブルーライト

これを読んだ皆様は最近、街で真っ青な街灯を見たことがあるでしょうか?

この青い街灯、心を落ち着ける効果があり、 自殺防止や犯罪防止に繋がるんだそうです。

これはそんな青い街灯の短い話。


私は特殊な仕事をしておりまして、生き物を採りに全国を巡ることがございます。

時はお盆前の8月初旬。私は仕事で奈良に魚を採りにきておりました。

市役所や地元水道局、農家の方などに許可をいただきまして、採集をさせて

いただいたのですが、その帰り道。夜行性の生き物の為、採集は夜だったのですが、

地元の夏祭りの日と重なり、花火の音や遠くから聞こえる賑わいで、臆病なその魚は

隠れてしまい、想定より時間がかかり、深夜2時になっておりました。


周囲は田んぼだらけで全く街灯が無く、真っ暗な夏の夜でした。

私は宿に戻ろうとしたのですが、タクシーは深夜やっていない地域の為、

徒歩で5kmほどを歩くことに。

採集の仕事でクタクタに疲れた私は、バケツやタモ、釣竿などを詰めた

キャリーバッグを引きずり、暗い道を歩いておりました。


しかし、この時間にこのような格好で一般の方に見られると、怪しまれることが

多く、補導される可能性も過去にあったので、私はなるべく田んぼの静かな道を

歩き、進んでいきました。


目印がほとんど無い真っ暗な畦道や道路を歩いているので、迷わないように

地図を見ながら歩いていると、関西本線などが走る線路の踏切が近くにあるのを

見つけました。


そこを超えると宿まで一本道と分かったので、迷うことは無いだろうと

その踏切を目指して歩いていました。


深夜3時半頃でしょうか。その踏切が見えてきましたが、異様でした。

田んぼのど真ん中、街灯がほとんど見えない周囲に対して、非常に明るく

真っ青な街灯に照らされ浮いているように見える踏切がそこにはありました。

私はここで、冒頭にある青い街灯がつけられている理由を思い出して、

田舎の自殺スポットなのだろうか。深夜にここを通るのは嫌だなと思いました。


しかし、ここを通らないとかなり遠回りして下手すると宿に着くのは朝。

いくら翌日が朝10時頃まで休めるとはいえ、それではほとんど休めない。

こちらは猛暑と長時間に渡る釣りで疲労困憊。その為、一刻でも早く帰りたかった。

このまま進むことにして、私はその踏切を通る。

大丈夫、何も無いじゃないかと思いホッとすると、あることに気がついた。

田舎に住んでいる方だったらよくご存知だと思うが、静かな田んぼ道というのは

都会の静かな道よりうるさかったりする。なぜなら用水路の水の音や、カエルの

鳴き声、虫の声などで意外と騒がしいものなのだ。


なのに、踏切の周囲には全く音がしない。無音なのだ。

気味が悪いなと思いながら線路の上を通ろうとしたその時、

カーンカーンカーンカーン

踏切が鳴った。おかしい。今は深夜だ。始発にしても早すぎる。

この時間に電車は無いはずだ。

私は流石に怖くなったが、万が一も考えてその踏切が上がるのを待った。

すると、耳元で

「楽になりなよ。」「休みなよ。」といろいろな優しめな声色の声が聞こえてきた。

驚いて振り向くが、誰もいない。踏切の音は鳴り続ける。

周囲には誰もいない。

踏切を乗り超えて逃げるように走るように私は逃げた。

怪談としては弱すぎるが、その後何も無く帰ることができた。


あの声は私を引きずり込もうとしていた人たちの声だっただろうか。

この仕事をしていると、各地で様々なものを体験するが、久々に夏に涼しい思いが

できた。



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