ダークエルフの弓使いにショタな弟子ができました
あじぽんぽん
プロローグ
彼は穢れなき誇り高いショタコンであった。
前世において、彼は結婚せず家庭を作ることをしなかった。
理由は女よりも男、しかも幼い子供のほうが好きだったからだ。
いわゆる重度のショタコン。しかし彼が自らの性癖を露にすることはなかった。
村では武骨で無口だが頼れる男として信頼され、また高い常識人であったため、そのような欲望は悪と断じてイエスショタ・ノータッチを死ぬまで貫いたのだ。
そんな彼の最後は魔物に襲われた子供たちを救うために鍬一本で勇敢に戦い……そして、命を落した。
しかし魔物を追い払うことはできた。
彼のおかげで子供たちは救われたのだ。
泣きじゃくる
だが次の人生があった。
彼が朧げだった自らの意識を取り戻したのは見目麗しい女性の胸の中だった。
自分が小さい手足の幼子となり、褐色肌の女性に抱きかかえられていることに気がついたのだ。
「ああ、私の可愛いアルテ、あなたの名前は今日からアルテよ」
あやしながら愛おしげに頬ずりして語り掛けてくる美しい女性。
どうやら今の自分はアルテという名前で女性は母親だと理解できた。
混乱はあったが彼は悟る……自分は生まれ変わったのだと。
なぜ前世の記憶を思い出したのかはわからない……しかし孤児で天涯孤独な身の上だった彼は、この優しそうな母に尽くして大事にしようと思った。
ただ、母の耳がやたらと長いことだけが気になった……。
アルテは三歳になった。
色々と分かってきた。まずは性別が女になっていた。
これについて最初は衝撃的であったがもう慣れてしまった。
むしろ今では男の頃の感覚を忘れつつあるくらいだ。
次にここはダークエルフという希少種族だけが住む土地であること。
もちろんアルテもダークエルフだ。
不思議なことに村には女しかおらず男の姿は一人も見なかった。
ダークエルフとは始まりの起源を一柱の女神とする一族姉妹でであり、その契約の元に女しか生まれない女胎の種族だとしばらくしてから知った。
では父親はどこにいるのだろう?
一度だけ母に尋ねたが悲しげな顔をされ、それ以降は聞くことをしなかった。
アルテは四歳になった。
アルテが生まれる前から村の外に出ていたダークエルフが旅から戻ってきた。
豊満な褐色の肉体を面積の少ない鎧で窮屈そうに包み、背中にはマントをつけバッグと弓を背負う旅装束。
母が子守唄代わりに何度も聞かせてくれた旅するダークエルフの狩人そのものの姿だった。
幼子の心をもつアルテは興奮して、この美しい女性にすぐ懐いた。
彼女も種族の中で一番若い妹――アルテのことを良く可愛がった。
あくる日、村の者に上手くいったのか? そう質問された女性は、ばっちり仕込んできたとサムズアップして答えた。
不思議な顔をするアルテに女性は、近いうちにお前にも妹ができるからと優しく頭を撫でてくれた……そう言うことかと前世の記憶をもつアルテは納得した。
それから数ヵ月後。種族に新たな妹が生まれアルテはお姉さんになった。
アルテは五歳になった。
頻繁に赤ん坊――妹を見に行くアルテに母が父親のことを語ってくれた。
ダークエルフの使命を果たす旅の際に出会った人間の戦士であった。
とても強く逞しい、そして誰よりも優しい人だった。
最後まで添い遂げたかったが当時出現した魔王と戦い、相打ちとなって命を落とした。
まだあなたには難しい話よね、でもお父さんはあなたが何処にいても守ってくれるはずよ……そう告げられた。
話を理解できる知恵をもつアルテは震える母の手を握りしめた。
アルテは六歳になった。
これといった出来事は起きていない。
血の繋がらない妹は神のもとに帰ることなく無事に成長して名前がつけられた。
彼女の名前はルナル。
アルテは七歳になった。
ルナルの面倒をよく見るようになった。
アルテは生前から小さい子供の面倒を見ることは嫌いではなかった。
ルナルは狩人ではなく女神に仕える巫女の資質があるらしい。
いずれは一族を率いていく長老になるのだとか。
アルテがルナルの母に懐いたようにルナルもアルテによく懐いた。
他に年の近い姉妹もいなかったので二人はいつでも一緒だった。
将来はアルテ姉さまと結婚すると言っているルナルをアルテは微笑ましく思った。
アルテは八歳になった。
ダークエルフたちが信仰する神は狩猟と貞潔をつかさどる月の女神である。
アルテの名前もこの女神にあやかったものらしい。
皆が見守る中、月の女神への誓いの儀式が行われ長老から一本の弓を授かった。
月の女神は弓の名手でありダークエルフたちも例外なく優れた使い手だった。
これからアルテは村一番の弓取りのルナルの母を師として、彼女の手ほどきで弓の修練をしていくことになる。
それと母からブラジャーを贈られた。
最近膨らんできたし、それまでパンイチだったのでそちらのほうがアルテには嬉しかった。
村にいるダークエルフたちは例外なく食い込みむちむちビキニスタイルだった。
アルテは九歳となった。
師であるルナルの母に連れられて訓練も兼ねた狩りに来ていた。
最近ようやく弓を引けるようになったアルテだが筋はかなりいいらしい。
この分なら私をすぐに抜くね、そう彼女に褒められた。
アルテにはそれがお世辞だと分かっていたが、尊敬する女性に言われるのは嬉しかった。
アルテは十歳になった。
相変わらず弓の修行に明け暮れている。
前世ではこれといった取り得もなく、趣味らしき趣味もなかったアルテは弓の魅力にすっかりと憑りつかれ夢中になっていた。
寝ても覚めても弓の話しかしないアルテに母も呆れ気味だ。
寝室にまで弓をもちこみ抱いて寝るアルテには寛容な母も流石に叱った。
アルテは珍しく怒りを見せる母に驚き、抱いて寝るのは三日に一回にした。
アルテは十一歳になった。
アルテの弓の腕はメキメキと上達し、かなりの腕前になっていた。
百メートル先の小鳥にも当てられる驚異的な技術を習得していた。
齢十一とは思えぬ神業。アルテには狩人としての天武の才があったのだ。
年に一度行われる弓の狩り比べでは参加者の中でアルテが最も多くの獲物を仕留めた。
長老や村の者、そして母も驚き、アルテを月の女神に愛されし者と褒めてくれた。
ルナルはアルテに抱きついて大はしゃぎだ。
アルテは十二歳になった。
ルナルにせがまれて二人っきりで狩りに来ていた。
森に危険があることは分かっていたが、自分の腕なら問題ないとアルテは増長していたのだ。
その結果、ダークエルフの村の周辺でもっとも恐ろしい熊の魔獣に出くわした。
ルナルが逃げる時間を稼ぐためにアルテは必死になって矢を撃ったが、強固な毛皮をもつ熊には傷一つすらも負わせることができなかった。
怯えるルナルを背中に庇い、あわやこれまでといったところで輝くような光をまとった矢が見えた。
不死身に思えた熊の魔獣は頭部を吹き飛ばされ、あっさりと死んだ。
放ったのは片膝立ちで弓を構える、険しい顔をした師であった。
長老が危機を予見し村の者たちが助けに来てくれたのだ。
アルテは安堵のあまり意識を失いルナルはその体に縋って泣きじゃくった。
アルテがベッドで目を覚ましたとき枕元でルナルが泣き疲れて寝ていた。
アルテは十三歳になった。
弓に魔力を乗せる訓練を行っていた。
ダークエルフは杖の代わりに弓を使って魔法を発動する。
ダークエルフの弓には魔法発動用の媒体が封じ込められており、発動することにより弓そのモノを魔力の刃として使うことができる。
また集中すれば魔力を矢に変換して撃ちだすことも可能なのだ。
アルテとルナルを救った矢もこの応用であった。
こちらのほうは習得にひどく難儀していた。
落ち込むアルテに、これを習得できる者のほうが少ないから気長にやればいいさと師は慰めながら抱きしめてくれた。
そばで見ていたルナルも慌てて抱きついてきた。
次はこれ以外の技術も教えていくよ、その言葉にアルテはうなずいた。
アルテは十四歳になった。
弓を撃ちながら移動する戦闘術を教わっていた。
近距離での射撃を可能にする訓練。狩りではなく戦うための弓の使い方だ。
射撃しながらの回避術は一人で生きていくには重要な技術だろう。
ただ側宙開脚しながらの射撃とか、胸を無意味に揺らしながらの射撃などには何の意味があるのだろうか。
その質問に師は、
アルテは十五歳になった。
アルテの成人の儀式が行われた。
といっても長老から注がれた酒を少し飲む程度の風習である。
ダークエルフに酒を飲む習慣はない。
そのためアルテになってから初めて飲んだお酒はひどく苦く不味い物で、もう二度と飲みたくないと言ったら母と村のみなに笑われた。
ルナルはひどく羨ましそうにしていた。
アルテは十六歳になった。
アルテの弓の技術は村一番といってもよい腕前になったが、魔法の腕前は教わって以来あまり伸びなかった。
戦闘に組み込んで使うにはまだまだ難しいだろう。
師は、アンタの年でそこまで使えれば十分さと笑ったがアルテの気分は晴れない。
アルテは熊の魔獣の一件以来、自身に完璧を求めた。
最近はルナルも難しい年頃なのか、アルテと顔を合わすと逃げていく。
アルテは十七歳になった。
魔法の習得については相変わらずである。
しかしそれ以外の技能は高い水準でまとまっており、長老から十八の年を迎えたら外の世界に出ることを許可された。
アルテはダークエルフの狩人として一人前と認められたのだ。
みな喜び、アルテを笑顔で祝ってくれた。
ルナルだけが悲しそうな顔をしていた。
アルテの十八歳の誕生日と旅立ちが近づいたある日、ルナルが行方不明になった。
師によると朝から戻って来てないのだとか。
長老の占いでは森にいることは確かだが、それ以上は探れないらしい。
間の悪いことに熊の魔獣が繁殖で活発になる時期である。
夜の深い闇の中、狩人たちが手分けして森を探すことになった。
もちろんアルテも参加した。
闇を見通すダークエルフの目でも捜索は難航し時間だけがじりじりと過ぎていく。
そんなときに微かな悲鳴をアルテの長い耳が捉えた。
その方向に風をまとい疾走をしたアルテが見たのは、大樹の洞で泣き声をあげてうずくまるルナルと、それを引きずり出そうと暴れる巨体の熊の魔獣だった。
ルナルは足に怪我を負って逃げることもできず、魔獣になぶられるように襲われていたのだ。
怒りで目の前が赤く染まりアルテは獣のように大声で咆えた。
だがその激情も、涼やかな音が聞こえた瞬間にすべて消えていた。
何者かに操られるように、走った勢いのまま片膝をついて滑りながら弓を構える。
矢をつがえてない弓の弦を引くと、先ほどの音色が、アルテの望む通りに魔力を導いてくれた。
ナムサンと理解できぬ異界の言葉が口からこぼれおちる。
明鏡止水――闇の風景の隅々まで、空気の流れすらも明確に見えた。
無意識のまま
魔力で作られたそれは、ルナルを叩き潰そうとした魔獣の太い腕に突き刺さった。
月の女神をその身に宿したアルテは、魔獣の上半身を根こそぎ吹き飛ばしたのだ。
アルテは十八歳になった。
旅立ちの日である。
それはダークエルフとしての使命を果たすための旅である。
正直な話、男としての前世の記憶をもつアルテにはあまり興味を惹かれる使命ではなかったが、早く
長老が、母が、師が、村の者たちがアルテの旅立ちを見送ってくれる。
村人の中からルナルが前に出てきた。
アルテの首に紐にくくられたペンダントを着けてくれた。
輝く石で作られた首飾り……あのとき、ルナルが危険な森に入ったのはそこでしか取れないこの石を探していたからである。
「アルテ姉様、私ずっと待ってますから。戻ってきたら
アルテはルナルに口づけをされた。
アルテは三百と十八歳になった。
彼女は未だに使命を果たせずダークエルフの村にも戻っていない。
その間には数多くの出来事があった。
語るにはあまりにも複雑で時間が足りない。
ただ、今現在、確かなことは……。
「お師匠さまー、これはどこに持って行けばいいですか?」
目の前には自分を母と、師と慕う、十二歳ほどの線の細い男の子。
ある事情により赤子の頃より育てた血は繋がらないが我が子のような大切な存在。
なのにアルテは忘れていたはずの性癖を、女の体となった肉欲と共に思い出してしまった。
――下腹部がじんじん疼くんですぅ♡
ダークエルフの弓使いにショタな弟子ができました。
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