再会
駅に少し用事があった。用事を済まして、家に帰ろうと自転車にまたがったその時、ある人の姿が視界に入ってきた。向こうもこっちに気付いた。愛理だ。そのままここを立ち去るか、声をかけるか迷った。
「鷲見くーん、久しぶりー。」
愛理が手を振りながら、駆け寄ってきた。手を振り返す。
「鷲見くん、どうしても話したいことがあるんじゃけど、ええ?」
「うん、いいけど。」
息を少し切らしながら話してくる。ただ、前よりも一層明るくなった愛理を見て少し安心した。近くのベンチに座った。
「あのね、付き合い始めるって決まって、けど中学校卒業までっていう期限付きはその時はすごく悲しかったんよ。」
「ごめん。」
「ん、けど、今ではそれで結果的に良かったって思うとるんよ。」
「えっ?」
「あの、受験が近づいとる時に、卒業が近こうて別れるの辛いってよく一人で泣きよったんやけど、ある日高校の話しとって、鷲見くんがホワイトハッカーになりたいけぇ、内田工業に行きたい、って言ったの聞いて、その後いろいろ考えたんじゃけど、別れるのでええ思えたんよ。」
一生懸命俺に伝えようとしていることが伝わってくる。
「うちのお父さんは広島におるときは、会社でそういうホワイトハッカーみたいな仕事しよったんやけど…、なんて言ったらいいか、その、ハッカーとホワイトハッカーって違うって言われるけどそれはどの立場から見るかで変わってくるわけじゃない。自分は会社のためにホワイトハッカーとして働いているって言っても、向こうからすれば自分はハッカーなわけで。そういうことを考えるようになって、お父さんはそれをやめたんよ。すごく苦しんじょって、そんな風になった鷲見くんは見たくなかった。けど、夢を諦めて、とは言えんかったけぇ。生きていく方向が違うんだって分かった。だから、今は後悔なんかしてないんよ。むしろ、感謝してる。壮弥くんと出会えた。今は、壮弥くんと付き合ってて、高校卒業して一緒の進路に進もうって約束しとって。」
「あぁ、そうなんだね。」
一つひとつしっかりとした言葉で話してくる愛理に圧倒された。うまく全ての状況は飲み込めれてはいなかったが。
「私、すごく幸せなんよ、鷲見くんのおかげで。あの判断はやっぱり間違ってなかったんだよ。だから、後悔とかしないで。鷲見くんももう私のこと忘れて、次に進んで欲しい。」
「う、うん。」
愛理は腕時計を見る。
「あ、もう行かんといけんけ、じゃあ、鷲見くん、元気でね。」
そう言うと、急いで離れていこうとする。
「あ、ありがとう。じゃあ。」
少し離れた愛理に向かって聞こえる声で言った。手を振り返してくれた。
一人でベンチの前に立つ。そんなことがあいつにあったんだな。けど、愛理が幸せで良かった。ふられちゃったけどな。後悔していたことが、ある意味無駄なことで良かった。
「うん、帰ろう。」
自転車をこいで進んでいく。少し目が熱くなるのを感じた。
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