後悔の先のオレンジ
落合 鷹鶯
失恋
なんで、今俺は、こんな話をしてるんだ?そう心の中で呟きながら
数十分前に、自分と同じ
『その人のこと、今でも好きなの?』
「あっつ」
美和の直球な質問に、危うくコーヒーを溢しそうになった。もう一度、送られてきた文字をじっくりと見る。見間違いなどではなかった。
「なんでこういうこと聞いてくるかなぁ」
溜め息交じりの声が、部屋に響く。虚しさが体中から染み出てくるような感覚に陥った。
ゆっくりと立ち上がり、貧血でふらふらと歩くように進む。部屋のカーテンを開けて外を見ると、今の自分の心を表さんばかりの重苦しい雲が空を覆っていた。
中谷美和は、画面に現れた映真の言葉を目にし、頭を机に打ち付けた。
『好きだけど、本人に伝える気はないな』
美和自身、このような言葉が返ってくることは予想済みだった。けれど、いざ受けてみると予想を遥かに上回る激痛が心を走るものだ。
映真の過去のことが知りたいとはいえ、あんなうそつくんじゃなかった。『失恋した』なんて。相手は、きっと私のことを思って、いろいろと自分自身のことを話してくれてるんだ、きっと。それなのに、私は…。これじゃあ、失恋を予言したみたいなものじゃないか。本当に自分はバカだなぁ。もう二度とあんないい人には出会えないだろうに。
後悔の念に駆られ、目から大量の涙が溢れてきた。つらいなぁ、さすがに、これは。言葉として耳で聞くよりも、もしかしたら、活字で目を通して知った方がつらいかもしれない。耳から受け取った言葉は、時間が経つとその時の相手の顔の表情などとともに、頭の中で再生される。記憶の中の音と映像は変わらない。そのものとして受け止めることになる。だが、活字だけとなると、どうしても自分の中の勝手な想像が想像を呼んでしまう。果てしなくネガティブな気持ちに陥ってしまうことになる。
「あーぁ、学校始まったら、どう接したらいいんだろう。あー、いっそのこと、ガン無視するとか?本人何も分かってないのに、それしたらびっくりするかぁ。友達として接するにも私の気持ちがどこまで持つか…。はぁ。どうしよう…。」
今の自分の置かれている状況に耐え切れず、とにかく思ったことをひたすら言葉として外に出していく。涙交じりの自分の情けない声に、一層虚しさを覚える。
「とにかく、すぐ学校ってわけでもないから、一旦置いとこ。うん、そうしよ。もう考えない、考えない。何も知らない。」
そんなことは無理だ、自分の気持ちへの無駄な抵抗だと分かっていながらも、無理にでも考えることをやめようとした。
もはや自分でも何を返しているのかよく分からず、ただ茫然としながらキーボードを打っていく。自分から話を始めておいて、無責任にも程がある、とひしひしと感じながらも、なんだかんだ返信をし、映真との会話を終わらせた。
「もういい、どうだっていいや」
ベッドに体を投げ出した。枕を抱きしめて、脚をバタつかせる。さっきまでどんよりと曇っていた空からは、いつの間にか大粒の滴が落ち始めていた。ただひたすら単調な雨の音が美和の世界を覆った。
気が付けば、10分ほど寝ていたらしい。流した涙は乾いて、頬に跡となって残っていた。目が痛い。目だけじゃない、心も。映真は、後で後悔するから絶対本人に伝えたほうがいい、と自分に言っていた。
「それが出来たら苦労しないんだけど。」
伝えるにも、大規模なリスクを伴うことになる。ましてや、好きな人がいると分かっている相手に伝えるなんて…、自爆しに行っているようなものだ。
特に意味もなく、部屋の隅を見つめる。自分だって恋愛に関して後悔したことがなかったわけじゃない。それでも、高校に入って映真に出会えて、あの時別れたのは意味のあることだったんだ、と思えるようになった。そのはずだった。
あと三日で夏休みが終わり、学校が始まる。どう接したらいいのかなぁ。あとそんなに経たないうちにこの世界は終わるかもしれないのに。少し震えている自分の手を呆然と眺めた。
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