17話ー⑮『獣化』

「ぐああああっ!」



 雷の放った光の魔法は、白夜をひどく苦しめた。彼女の体は今、獣化によって闇の魔力で満ちている。故に、光属性の魔法は効果抜群だった。



「白夜! 今戻してあげる!」

「天神! やめろ!」



 直人が慌てて叫んだ。



「やりすぎると寄生獣ごと白夜が死ぬ!」

「ッ……!」

「白夜の意識を戻すのが先だ!」



 影を作り出し、直人は白夜を捕まえた。自身の痛む体を引きずり、必死に彼女に呼びかけた。



「白夜、もう戦いは終わったんだ。天神朝陽を倒してくれたのは白夜だろう? 気絶して吹っ飛んできたよ。だから……」

「ぐッ………ああああああッ!」



 白夜の全身から、闇が四方八方に飛び散った。それは、触れると意識を闇に被っていった。雷は急いで魔法を唱え、闇を消す。



「壊さないと………倒さないと………殺さないと………」

「ごめんね、白夜。怖い思いをさせてしまって。もう大丈夫だよ」

「何が大丈夫なんだよッ!」



 白夜は直人に拳を叩き込んだ。地面に叩きつけられた直人は、かろうじて意識は繋げたが、体を動かすことが出来なかった。

 続けて白夜の殺意は雷に向く。しかし、雷の光魔法により、彼女は再び蝕まれた。



「あああああああッ!」

「白夜! 早く元に戻って!」



 苦しみながらも、白夜は雷を蹴り飛ばした。吹っ飛んでいく彼女を追いかけ、殴りかかろうとした瞬間、再び白夜は光に包まれた。しかしそれは、雷が放ったものではない。



「雷。正気のまま闇と戦っているとは、感心感心」



 姿を現した少女に一番驚いたのは、雷だった。



「お姉ちゃん⁈」



 そう。彗だったのだ。彗は、蘭李と直人を順に見て、何か納得したようにああ、と呟いた。



「なるほど。要注意人物って、こういうことだったのね。たしかにこれは危ないね」

「お姉ちゃん……まさか白夜を殺すつもり?」

「そうしたいけど、どう足掻いても無理そうだよね。私も手負いだし」



 彗は、雷に魔導石を見せた。



「冷幻白夜を元に戻せば、この場は収まるのでしょう?」

「………うん!」



 嬉しそうに笑う雷。対称的に、白夜は怒りを含んだ目で彗を睨んでいた。



「光………殺してやる……!」

「雷は呼びかけて! 私が守るから!」

「分かった!」



 白夜が闇を放った。それを光で打ち消し、彗は白夜に銃弾を撃った。弾は白夜の足ギリギリで掠っただけだった。



「白夜、お父さんを止めてくれてありがとう。白夜がいなかったらみんな死んじゃってたかもしれないよ」

「まだ………まだ………!」

「もう十分だよ。あとはうちらがやるから、白夜はもう休んで」

「駄目だ………まだ………」

「白夜、お願いだから元に戻ってよ……」

「私は……私だ……!」



 私は、冷幻白夜。



 どっちの・・・・



「どっち………? 私は……どの『白夜』……?」

「まずい……! 白夜……!」



 地面を這いながら、直人が白夜へ必死に呼びかける。雷も白夜の肩を掴んで叫んだ。



「白夜は白夜だよ! 白夜は一人しかいないよ!」

「強い方の私……? 弱い方の私……? 兄弟がいる方の私……? いない方の私……?」

「白夜! しっかりしてよ!」

「私は――――――誰?」





 ビャクヤなんて名前だったっけ。



 もう、分からない。



 まあ、分かる必要もないか。





「あなたは『ハク』だよ」





 ぽつりと呟かれた言葉。白夜の隣には、コノハに支えられながら、蘭李が立っていた。浅い呼吸を繰り返し、震える唇を必死に動かす。



「『白夜』だから………『ハク』」



 それだけ言うと、蘭李はフッと意識を飛ばした。コノハが彼女を抱き上げ、睨むように白夜を見据えた。



「名前なんて、被ることもあるしね。だからこそ、あだ名って大事だと思うけど」





 じゃあ……ハクだね! よろしくね! ハク!

 なんでハク? 白だから?

 そ! 白夜って呼びにくいし、あだ名って親近感湧くよね! あたしのこともあだ名で呼んでいいよ!

 じゃあ……蘭李で。

 えっ⁈ なんで⁈ 今の流れでなんかつけてよ!

 そんなすぐに思い付かないし。

 う〜……じゃあ、思い付いたら言ってね! ハク!





「そうだ………私は………『ハク』だ………」



 フッと、白夜の周りの闇が消えた。その瞬間、直人が雷と彗に促した。



「今だ! 光を!」

「ポースフォスィオル!」



 姉妹は声を合わせて叫んだ。白夜は強い光に包まれ、その光は彼女の内部にまで浸透していく。白夜は―――いや、白夜ではない何者かは、苦しみの咆哮を上げた。





 彼女を支配したいわけじゃない。

 ただ、彼女が助けを求めたから、それに応えたかっただけだ。





「分かってるよ、フェンリル」





 白夜はぼくを抱きしめた。





「ありがとう」




 そっか………ぼくはもう、いらないんだね。

 君のこと、最期まで守りたかったな。








 ――――――――――――暗転。

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