11話ー⑧『力量差』
―――――――――ドォオオオオオンッ
轟音と共に、視界が砂煙に包まれた。衝撃で後ろへと体が飛ぶ。コノハの鎖を掴んでいたお陰で、何とか吹き飛ばされずには済んだ。
なんつー奴だ。躊躇いなく大砲みたいな弾撃ってきやがって。町中なんだから、少しは遠慮する気持ちを持てよ。
魔警察―――つまり、ワインレッドの女『カヤ』と、変態巫女『クウ』が到着したのは、ついさっきだった。まあ予想通りの人物だったけど、たった二人なのは驚いた。てっきりもっと来ると思ったが。純粋な人手不足なのか、舐められているのか……。
カヤは戦う気満々だった。「久々にアレ使える~!」とか「でもコイツらじゃ力量不足ね……強い奴いないのかしら」とか、やはり戦うのが好きらしい。
一方のクウは嫌がっていた。「女の子をいじめたくない!」とか「あっ、でも服が破けた姿は見たいかも……」とか、この間と変わらない変態振りだった。
キャラの濃い二人………などと観察していたが、唐突に戦いは始まった。はじめ、攻撃を仕掛けてきたのはカヤだった。カヤは、自身の左ももに装備された小さなポーチに手を突っ込み、何かを取り出す。それは、奴の身長とほぼ同じくらいの長さで、トリガーや大きな銃口のような部位が見える。
あんなデカいもの、物理的に考えればあのくらいのポーチに入るわけがない。ということはあのポーチ、魔法道具なんだろう。いいなあれ。私も欲しいかも。
それにしても、あんなにデカい銃を持ち歩いているのか。あんなのに当たったら、ひとたまりもない。
――――――などと思っていたら、カヤがその銃を肩に担ぎ、銃口をこちらに向けて発砲してきたのだ。
「大丈夫か⁈」
秋桜が砂煙の中、私に叫んでくる。私よりも他の奴らを心配してほしい。コノハの重りがあったからこそ留まっていられたが、他はそうじゃないはずだ。
「秋桜! 雷達の様子は⁈」
「えーっと……ちょっと待ってろ!」
秋桜の姿が消える。辺りを見回しても、砂煙で誰も見付けられない。唯一コノハだけは分かるが、コノハを認識出来たって……。
「ッガ―――⁈」
突然左から何かが飛んできて、思いっきりぶつかってきた。激痛が走る。傍に落ちたそれに視線を落とすと………。
「しっ紫苑⁈」
「いってええ………!」
紫苑だった。お腹を押さえてうずくまっている紫苑だった。まさか人が飛んできたなんて思ってなくて、思わず唖然としてしまう。
視界がクリアになってきた。改めて見ると、修道女『マイ』が海斗と戦っているところだった。海斗の水龍が、巨大な鎌を持つマイに襲いかかる。マイの周囲を強風が吹き荒れ、水龍は形を保てず崩れた。しかし、壊れたコンクリートから堅い土の腕が現れ、マイの胴体に掴みかかる。
「捕まえたッ!」
槍耶が叫ぶと同時に、海斗は鋭く尖った氷柱をマイへと飛ばす。雷も魔法弾を放った。未だ風は吹き荒れているが、それらは真っ直ぐ飛んでいった。
「そんなのムダよ」
銃を担ぐカヤがニヤリと笑う。その銃口からは、硝煙が上がっていた。
―――――――――キィンッ
「⁈」
マイの大鎌が、氷柱と魔法弾を薙ぎ払った。だが、マイの手からはその大鎌が離れている。
「か、勝手に⁈」
「まさか……魔具⁈」
大鎌が風と共に飛んでくる。反応出来なかった槍耶は、振るわれた大鎌に腹を斬られた。血が飛び、マイが土から解放される。
「申し訳ありません。本当は傷付けたくはないのですが……」
「そう言いつつ躊躇なく戦ってるじゃない? マイ」
「彼等が手を出してくるからです」
もとはと言えばそっちがケチつけてきたからだろ。そう言いたかったが、ぐっと我慢した。代わりに睨み付けると、マイは鎌を手に取った。
あの鎌、魔具ではないと思う。刃が変形したわけじゃない。人の手元から離れ、独りでに動いたのだ。いくら魔具だからって、そんなことは出来ないはずだ。コノハだって、自分で鞘から出られないらしいし。
「ねえマイ、もう一発撃っていい?」
「駄目ですカヤ。亡くなってしまわれたらどうするのですか」
「いいじゃない別に! そんなのアタシ達には関係無いわよ!」
「ダメーッ! カヤ! 女の子を撃たないで!」
「男性も駄目ですよ、クウ」
馬鹿みたいなやりとりが繰り広げられる。あっちは余裕そうで不愉快だ。どうにか黙らせたいが、そんな力あったらこんなに困ってない。
仕方無さそうに銃を背に担いだカヤは、体を伸ばし始めた。
「さあーて。なら、そろそろアタシも暴れようかしら!」
「カヤ。間違っても殺しては駄目ですよ。いいですね?」
「もぉー! 分かったわよ! 仕方ないわね」
「殺しはするな。あいつらを殺したら俺がお前を殺す」
ギロリとカヤを睨む蒼祁のその足は、朱兎の首を踏みつけていた。少しでも動こうものなら、容赦なく圧迫されている。
カヤとクウが到着する少し前に、蒼祁は朱兎をこうして押さえ付けた。言うことを聞かないからだろうが、それにしても酷い。普段はいっつも一緒にいるくせに、ちょっとでも逆らうとこんな仕打ちを受けるのか。これじゃ朱兎は蒼祁に支配されて……―――。
―――そういえば、コノハは全然嫌がってなかったな。首輪をつけようとか、奴隷だとか蘭李が言っていた時、コノハは何も反抗しなかった。むしろ乗り気にさえ見えた。
どういうつもりなんだ? 束縛されてもいいって、コノハはそんなにマゾ気質じゃなかったはずだけど……。
チラリと見ると、当の本人コノハは辺りをキョロキョロと見回していた。重りがあるからぎこちない動きだけど、なにやらそわそわしている様子だ。声をかけると、ビクッと体を小さく震わせて、伏し目がちに私を見た。
「………何?」
「そわそわしてどうした?」
「……別に。そわそわしてないし」
してたよ、がっつり。そう言うと、何も言わずに顔を背けられる。
やっぱり変だよなぁ……あ、でも無視されることはたまにあるか。
「オラッ!」
その声で意識が現実に戻され、視線を移した。槍耶がカヤに、槍を振り下ろしているところだった。その柄を掴んだカヤは、空いてる片方の手を槍耶に突き出す。そこから炎が放出され、槍耶が炎に包まれた。
直後、カヤに水龍が襲いかかる。軽々しく避けられたが、水龍は槍耶を炎から解放した。
「鬱陶しいわね。コイツら」
「鬱陶しくて結構!」
真っ白い一角獣のペガサスに乗った雷が、宙から弓矢を放った。真っ直ぐカヤへと飛んでいくが、途中風に煽られ矢は朱兎の目の前に落ちる。
「ペガサス……アタシ初めて見たわ。本当にいるのね」
「それだけ彼女が純真な心の持ち主なのでしょう」
「どーかしらね」
カヤの足元から炎が立ち上り、雷に向かって火の玉を一つ投げるカヤ。ゆらゆらと浮遊したため、避けるのは容易だったが、火の玉は雷の傍で留まった。
「純真じゃなくて、ただの馬鹿ね」
パチン、と指で渇いた音を鳴らすカヤ。次の瞬間、火の玉が爆発した。
「雷ッ!」
黒い煙から落ちてくる雷とペガサス。一角獣はその途中で消え、雷だけが地面に落ちた。服は破け、全身に傷や火傷を負っている。紫苑が駆け寄っていった。
「普通警戒するでしょ。何ボーッと眺めてんのよ」
「カヤ。もう少し手加減してください。見ているこっちがヒヤヒヤします」
「カヤ! 女の子に手出さないでよ! かわいそう!」
「あーあ。こんなに弱いと興醒めね」
心底残念そうに溜め息を吐くカヤに、マイは不安そうな視線を送る。ぷんぷんと怒るクウは、騒がしくカヤに迫っていた。
強い……分かってはいたけど、こう舐められてると、ムカついてくる。せめて夜になってくれれば、私だって戦えるのに……!
「じゃあさっさと取り返しちゃって良いわよね?」
「始めからそうして下さい。無用な戦闘でしたよ?」
「アタシは殺し合いが好きなの! 任務なんて二の次!」
「もう絶対女の子は傷付けないでよね!」
「そんなの無理よ」
カヤが駆け出す。こっちに一直線。狙いはコノハだ。
私が太刀を構えると、カヤはニヤリと笑った。
「弱い奴は、引っ込んでなさい」
炎に包まれた拳が、私に迫ってきた。
「それはこっちの台詞だ、女」
眼前を勢いよく、右から左へ通りすぎていった何か。私もカヤも、驚いて硬直してしまう。
直後、カヤの喉から水平方向に傷が生まれ、だらだらと出血し始めた。
「なっ……⁈」
「もう一発だ」
声の直後、再び前を通りすぎる何か。カヤは背後へ飛んで避けたものの、右腕に同じような傷が生まれていた。
何か―――それは、声で瞬時に理解した。それと同時に、とてつもない安心感が私の心を支配した。
「大丈夫か? 白夜」
ポン、と背後から肩を叩かれる。振り向くとやはり、予想通りの男がそこにはいた。紫がかった短髪に、憎たらしい程の高身長と整った顔。白を基調とした制服に身を包むその肩には、こいつの顔と同じくらいの大きさの烏がとまっている。
「――――――遅いんだよ、直人」
闇軍統帥の息子であり、何故か私に好意を寄せている変わり者の『影縫直人』は、暗い紫の目を細めて笑った。
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