11話ー⑦『阻止』
「蒼祁! 待てって!」
白夜が呼ぶが、歩みが止まることはなかった。むしろ速足になっている。ズルズルと引きずられるコノハは、苦しそうにむせていた。
晴れ渡った昼間。人通りも多く、すれ違う人々は奇妙な目でその光景をじろじろと見ていた。
人目がついてもお構い無しかよ。一体どんな神経してるんだ⁈
「いきなり魔警察に明け渡すなんておかしいだろ!」
「そこまでしないと分からないみたいだからな」
「このっ! 離せよっ!」
「魔警察に渡したら殺されるんだぞ⁈ いいのか⁈」
「仕方ないだろ。もうこいつは手に負えない魔具に成り下がったんだよ」
俺の土魔法で止められるだろうが、こんなに人がいちゃ出来るわけない。くそっ……それも見越してってことか⁈
そんなことを考えていたら、突然蒼祁の足がピタリと止まった。何事かと道の先を見てみると、白と黒の修道女が立っていた。
「良いところに来たな」
「あれは……魔警察だ! マズイ!」
白夜が慌てて叫ぶ。
あの人、マジで魔警察なのか⁈ あれが母さんと同業者…………でもどう見ても、修道女なんだけど……。
「子供を鎖で引きずっている少年がいるとの通報があって来てみれば……」
「お前らを呼ぶのには最適だろ?」
「我々に用が?」
「ああ」
「蒼祁! やめて!」
雷が駆け出した。鎖を掴む蒼祁の左手へと腕を伸ばすが、その腕は朱兎によって掴まれてしまう。蒼祁は、魔警察らしい修道女に鎖を差し出した。
「コノハをお前らにやるよ。煮るなり焼くなり好きにしな」
「蒼祁ッ!」
「………急になんですか? 何を企んでいるのですか?」
「企んでねぇよ。ただ、こいつを処分してほしいだけだ」
白夜も駆け出す。朱兎が雷を突き放し、向かってくる白夜へと左手を伸ばした。だが、その腕は結界のようなものに弾かれた。驚く朱兎を他所に、両手で握りしめた太刀を蒼祁へと振り下ろす白夜。
―――――――――ガギィンッ
「ほお」
手から離れた鎖を、白夜はすぐさま掴んだ。そのまま俺達のもとへと走ってくる。
てっきり俺は、太刀を蒼祁に振り下ろすのかと思った。だが白夜は、振り下ろしている間に右手だけに持ち換え、蒼祁が持つ鎖へと振り下ろしたのだ。結果、蒼祁の手から鎖が落ち、白夜はコノハを連れて戻ってきたというわけだ。
「おっ、おもっ……この重りどんだけ重いんだよ!」
「ナイス白夜!」
「夏さんの魔法道具、持ってきててよかった」
「大丈夫か? コノハ」
「何とか……」
手錠や足枷は白夜に取ってもらうことにし、俺達は再び蒼祁に向き直った。雷も戻ってくる。いつの間にか不自然なまでに、周囲に人はいなくなっていた。魔警察が何かしたんだろう。
青い目を光らせ、蒼祁は俺達をじっと睨んでいた。朱兎も見ているが、少し困ったような表情に見える。
「おい返せ」
「嫌なこった!」
「そいつのせいで蘭李はおかしくなったんだぞ。お前らだって見たろうが」
「コノハのせいだなんて決まったわけじゃないじゃん!」
「どう考えてもそいつのせいだろ」
俺達は自然と武器を構え始めた。不穏な空気に、油断出来ない。
あの双子は用心しないとな。以前、紫苑が「朱兎とだけは二度と戦いたくない!」って半泣きしてたっけ。一体何をされたんだろうか……?
「………貴方は今、我々側ということですか?」
「ああ。朱兎もな」
修道女と蒼祁が話す。
これ……結構まずくないか? このままだと、双子&魔警察と戦う羽目になるんだよな? そんなの、勝ち目あるのか? ただでさえ双子が強いっていうのに、魔警察まで加わったら……。
「だが今、俺の魔法はあてにするな。少し使えなくてな」
「分かりました。なら増援を呼びます」
「どのくらいで来る?」
「三分程ですね」
「だそうだ。いけるか? 朱兎」
「んー………」
赤い目を凝らして、朱兎が俺達を見回す。一瞬、その動きが止まった。しかし直後には、くるりと蒼祁に顔を向けた。
「うん! 大丈夫!」
ニッコリと笑った朱兎は、こっちへ駆け出してきた。凄い速さだ。流石強化魔法。
「くッ……!」
ちょうど俺が魔法を唱えたと同時に、朱兎が飛んできた。目の前に立ちはだかる土の壁が朱兎を拒んだが、亀裂が入り、すぐに崩れてしまった。赤い目と目が合う。
直後、朱兎が右へと飛んでいく。それを氷柱が左から追いかけていった。
「おりゃっ!」
氷柱に気を取られた朱兎に、雷が大剣を振り下ろす。上手い。氷柱と刃が同時に朱兎を襲う。が、その二つとも、朱兎の振るわれた拳によって粉砕されてしまった。
「朱兎。いいぞ、本気出して」
蒼祁がフッと笑う。途端に紫苑の顔が青ざめた。
多分、ヤバイんだろうな。本気を出されたら。流石に殺されはしないと思いたいが……。
「おい神空蒼祁。俺達を殺すつもりか?」
「俺がそんなに非情に見えるか?」
「見える」
「失礼な奴だな」
海斗と蒼祁が睨み合う。その間に、雷が朱兎に魔法弾を放った。光り輝くそれは、朱兎に直撃した。顔をしかめた朱兎は、その場に膝をつく。
「おいどうした? 何手ぇ抜いてんだ、朱兎」
兄の視線は、双子の弟へと移される。蒼祁が睨むと、朱兎はビクッと肩を跳ね上げた。
「えっと………別に手抜いてなんか……」
「ふざけんな。そんなのを避けることなんて楽だろ? それにさっきから動きが遅い。まさかとは思うがお前……」
――――――俺に逆らうつもりか?
――――――そもそも奴隷が一人で出歩くことないでしょ? 何の問題もないじゃん。
蒼祁のその言葉は、蘭李のあの発言を連想させた。だがあの時程、恐怖することはなかった。
失礼だが、蒼祁なら普段からこんなこと言ってそうだし……。
「ア、アニキ……コノハを殺すのは……」
「お前までそんなこと言うのか?」
「だって……コノハが死ぬなんてそんなの……」
「お前は前にもそう言ってたな。だが結果、「あいつ」をどれ程傷付けた?」
何の話だ? この双子は謎が多くて、たまに話についていけなくなる。後から訊いても話してくれないし。いつかちゃんと訊いてみたいものたが……。
「殺してやる方が楽になるって、まだ分からないのか?」
「何だそれ……そんなの蒼祁の勝手な判断だろ⁈」
「操られて友達を殺すくらいなら、殺された方がマシ。お前らもそう思ってるんじゃないのか?」
ギロリと俺達を睨む蒼祁。
それはたしかにそうだけど………。
「コノハは操られてないじゃん!」
「こいつがおかしくないと言い張る限り、それなら誰かに操られてると考えるのが普通だろ?」
「ッ……!」
「悪魔と接触したのは事実らしいし。だが、何故蘭李のもとに帰したのかが分からないな……」
「油断させて殺すためでは?」
「回りくどい」
蒼祁と魔警察が話し始める。朱兎は項垂れたままだった。
たしかに客観的に見れば、コノハは悪魔に操られてる可能性がある。理由はどうであれ、あの事件が起きてからおかしくなったんだ。むしろ、あの時からおかしかったとさえ考えられる。
だからと言って、そう簡単に割り切れねぇよ……。
「なあ……」
白夜の囁きに注目する。見ると、まだコノハの拘束は取れていないみたいだった。白夜は、俺達だけに聞こえる程の声量で言った。
「少しの間、魔警察を凌げるか?」
「どういう意味だ?」
「睡蓮に助けを呼びに行ってもらったんだよ。健治と蘭李、それから………もう一人」
驚く俺達に、少しだけ笑った白夜は、紫の目を光らせた。
「たぶん、蒼祁を止められる奴」
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