9話ー⑩『真逆』

 ちょうど海斗達が辺りの蜘蛛を一掃し終わった頃、聞き慣れた高い声が森の中で響いた。三人がその方を見ると、雷と白夜、コノハが走ってきていた。白夜の背後についてくる黒い影の手は、蘭李を握っている。その傍では、蜜柑と秋桜が並游していた。



「いたいた! よかったー!」

「そっちは大丈夫だったのか⁈」

「うん! なんか悪魔どっか行っちゃったみたい!」



 男子達の目の前で立ち止まり、どさりと影の手が蘭李を降ろす。蘭李は険しい顔で寝言を呟いていた。



「うう……マグロ……追いかけてくる……」

「マグロ?」



 男子達についていた睡蓮が、不思議そうに蘭李を見下ろす。その彼女の頭を、コノハがペチペチと叩いた。



「起きなよ」

「う……?」



 ゆっくりと瞼を開ける蘭李。そのまま数回目を瞬かせ、ガバリと勢いよく起き上がった。辺りを見回して、ぼそりと呟く。



「マグロは?」

「もういないよ」

「あ……夢か……」

「どんな悪夢だよ」



 安堵したように息を吐く蘭李に白夜が問うが、彼女はへらっと笑っただけで語ることはしなかった。海斗は、立ち上がった蘭李の前に立つ。彼女は気まずそうに視線を逸らした。



「…………」

「…………」

「え、何これ」

「雷、しーっ」



 槍耶が雷を黙らせる。沈黙が流れる中、先に口を開いたのは海斗だった。



「悪かった」



 瞬間、蘭李の体がピシリと固まった。疑うような眼差しを彼に向ける。



「今回は俺が悪かった」

「…………あ、う、うん……」



 思わず返事をする蘭李。しかし彼女にはにわかに信じられなかった。

 ―――海斗が謝った⁈ たしかに海斗は悪いと思うけど、まさか謝られるなんて! いやでも、普段も何かあればちゃんと謝ってるか……あたしは謝られたことないけど……。

 再び沈黙する二人。それを見かねた白夜が、蘭李の肩にポンと手を置いた。



「じゃあ帰ろうぜ。結構退治しただろ?」

「そうだね。えーっとたしか、闘技場はこっち?」

「あっちだな」



 槍耶を先頭に、彼らは闘技場へと足を運ぶ。蘭李もついていくが、一番後ろにいる海斗の少し前について、小さく呟いた。



「あたしは謝らないからね」

「…………」

「だってあたし悪くないもん」

「本当ムカつくなお前。嫌味か?」

「違うよ! あたしだって好きで才能があるわけじゃないし……」

「それ以上何か言うとまた流すぞ」



 蘭李は口をつぐんだ。溜め息を吐いた海斗は、スタスタと彼女の横を通りすぎ、前の雷の隣に並ぶ。蘭李は何となくスッキリしなかったが、言われた通り、それ以上は何も言わなかった。そんな二人のやりとりを、耳をすまして聞いていた紫苑は、ふと思った。


 ――――――才能が無くて友達を守れなかった海斗は、力を求めて強者を選んだ。才能があったから友達を守れなかった蘭李は、その才能を封じ込めて弱者を選んだ。真逆の道を歩んだ二人だからこそ、衝突することが多いのかもしれない。

 でももし、全く逆の立場だったら――――――。



「俺達は、会わなかったのかな……」



 彼は、それ以上考えるのをやめた。そして、先へ進む仲間の後ろをついていった。







9話 完

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